万能王女は国のために粉骨砕身頑張ります
「うっわ、天帝……めっちゃイケメン……」
 ぽかん、と呆けた莉々の頭を、母がぐっと抑えて叩頭させた。周囲の、平れ伏したままのひとたちがざわめく。

「ほう、その娘は余の姿が視えるのか」

 心地よいバリトンに、莉々ががばっと顔をあげる。
「見えます! 彫りの深い端正なお顔ってこのことですよね! すっごい……芸能人で言うと誰かなぁ……アイドルって言うより俳優? ちょっと人間離れして整い過ぎてて……思い浮かばないわ」
 写メとってシェアしたい、お肌つやつや、さらっさらの茶髪は地毛かな? とウズウズする莉々を、再び母が叩頭させる。
「構わぬよ、玉華《ぎょくか》」
「帝、申し訳ございません。教育が行き届かず……」
「我々天人を見ることが出来る、この桁外れの霊力が必要ゆえ、人界から無理矢理引きはがした。多少のことは咎めぬ」
 はて? と莉々は周囲を見渡した。
「お母さん、普通の人は天帝や女官や、周りにいるいろんな人が見えないの?」
「……莉々には見えるのね、誰がどこにいらっしゃるのか」
「え? 目の前の椅子に赤いチャイナっぽい格好の天帝が立っていて、左右にお母さんと同じ天女みたいな服の女性が三人ずつ。みんな美女だけど、うーん、四十代かなぁ……。そのまわりに、いろんな動物がいるでしょ?」
 はぁ、と周りの人たちが吐息をもらした。
「素晴らしいな、莉々。余の姿が視えておるのはそなただけじゃ。天女の格好の女神たちは、二人顕現して残り四人は隠形しておるゆえ、通常ならば見えぬはずじゃ」

 こんな感じじゃな、と天帝が莉々の顔の前に白い手をかざす。
 途端に、天帝の姿が消えて気配だけとなり、たくさんいた天界の人たちも消えてしまった。
「え、うそ……」
「そなたは、修行を行わずして余を凌駕する霊力の持ち主じゃな。素晴らしいが……」

 天帝が言葉を切り、しん、と周囲が静まり返った。
「そうか、そこまで力が強いと、ちと、弊害がありそうじゃ。玉華、莉々を修行させる時間はあるか?」
 ございません、と平伏したまま母が答える。
 莉々が呆気にとられていると、ぱちん、と音がして視界が元に戻った。
 天帝が、難しい顔で莉々を見ている。
「このまま、かの国へ放り込むのは、無茶ではないか?」
「しかしかの国は、モンスターが跋扈し隣国の脅威にさらされ、救国の英雄を求めています。天帝と西王母様への賛歌がそろそろ、それぞれ三千唱になるかと……」
「都合六千、か。水盤を見ても、猶予はないのは明らか。……仕方ない、莉々、かの国……ライラ―国へ転生し、迷える子羊たちをごっそり助けてくるのじゃ」

――うん? 
――なんだって?

「転生して? 助けるって?」
 誰が?
 誰を?

「すまぬな」
「え?」
「我等の庇護から零れ落ちた小国があってな。神々の庇護がないゆえ、大惨事じゃ。あまりに憐れゆえ……そなたを遣わすことにしたのじゃ、それ、頼んだぞ!」
 
 ぽわっ、と体が浮いたと思ったら、天帝が作り出した白く光る球の中に吸い込まれた。

――ちょっとおおおおおお! もうちょっと説明してくださいよぉぉぉ!!!

「莉々、頑張るのよ! ライラ―国の未来は、あなたにかかっているのだから!」
「お、お母さん! 一緒に来てよ!」
「いつも見守ってるわ!」
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