万能王女は国のために粉骨砕身頑張ります

第一章 天帝に導かれて、小さな国へ転生

「莉々よ、転生までに時間がない故、余が直接説明する。着くまでにどの程度説明できるか」
 天帝の言葉に、不安がよぎる。
 準備不足で取り組んだプロジェクトが成功する確率は、とても低いのだが……。
 
「まず転生することを承知するな? 承知したならば、右手を挙げ……いや、よい! 滑空の姿勢を維持して構わぬ。天から人間が落ちたら、地面が抉れて大惨事じゃ。気をつけよ」

――ハイ!? ……なんか、もう不安……

「今からそなたは、英雄として転生するのじゃ。それは余たちがさっき宿命と定めたゆえ、逃れられぬ」
 勝手に決めないでよ、と思うが反論する心の余裕はない。
 ぐらりと体が傾き、落下速度が上がったのだ。慌てて手をバタバタさせて姿勢を元に戻す。
「よいよい、さすが玉華の子、適応力が素晴らしい」
 どこか楽しそうな天帝の声が、天上からわんわん響き渡る。

 どうやらこれは、全天界アナウンス、という滅多に使われないシステムらしい。

 莉々は今、天帝の分身である少年たちに導かれて、地上へと運ばれている真っ最中だ。
 超高層からエレベーターで一気に降りるようなもので、莉々の心は『それどころではない!』と天帝からの精神感応《テレパシー》をブロックしてしまった。
 そこでやむを得ず大げさなシステムを起動するに至ったのだ。
「ね。ねぇ、このまま着地したら、わたしの転生は成功?」
「左様。そなたは成長し、英雄となることまで決まっておる」
「もしわたしが、全部嫌だって言ったら? 失敗したらお咎めある?」
「拒否権はない。が、救国の英雄となるか、滅亡させる英雄となるか、売国の英雄となるか、それは選べるようにしておいたから好きにいたせ」
 そこが選べてもねぇ、と莉々は思う。
「そこは実際に国を見て、莉々が熟考して決めればよいぞ! 手に負えぬと判断したら、迷わず滅ぼしてよい」
「なんかひどくない?」
「天とは時には非情なのじゃ」
「……ん? 手違いで慈悲が届いていなかった、とか何とか言ってなかったっけ? つまり、天界のミスよね?」
「…………頼んだぞ、莉々! それ、ちと遅れておる。急げ! 加速!」

 超高速エレベーターで、地上めがけて一気に下りる。
「いやぁぁぁぁ……! 天界へ戻るぅぅぅ!」
 莉々がバタバタすると、天帝の分身である少年たちが慌てて莉々の手足をおさえた。
「莉々さま、落ちます!」
「どうか、落ち着いて!」
「転生に失敗してしまいます」
 失敗!? 不吉な単語に、莉々の顔が引き攣る。
「やっぱり転生に失敗とかあるのね!? いやだ、戻る!」
 失敗することもあります、と少年たちが答えるが、慌てたように「そなたは今から、ライラ―国へ転生するのじゃ!」と、天帝が声を被せてくる。
 だが莉々は不安でいっぱいである。
 あまりに不安で、お母さんどうしよう、と叫ぶ。すると
「莉々、大丈夫よ! ライラ―国の未来は、あなたにかかっているのだから! 頑張って!」
と母の声がする。

「案ずるな。いずれ、前世の記憶とそなたに託された任務を思い出す。思い出したら……ライラ―国を助けてやってくれ」
「ライラ―国とは、どんな国ですか?」
「手違いにより、我らの目や手、すなわち慈悲がまったく届いておらなんだ、憐れな国じゃ」
 そう言うことを聞きたいのではなくて! と、莉々は叫ぶ。
「小さな、小さな王国じゃ……頼んだぞ……」

 天帝のアナウンスと、母の励ましの声を聞きながら、莉々は真っ白の雲海に突っ込んだ。
 白い雲に突っ込んだはずが、周囲は真っ暗。

「おかあ、さん……わたし、なんだか、体が縮んでる気がするの……」

――莉々さま、転生成功にございます!
――これより数か月後に、ライラ―国唯一の御子として誕生予定です!

 高らかにラッパが鳴って少年たちが喜びの報告をするが、胎児となった莉々には聞こえていない。

 こうして莉々は、ライラ―国の王妃の胎内へと送り届けられ――王国唯一の子として大事に育てられることになったのである。
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