万能王女は国のために粉骨砕身頑張ります
「国王陛下、皇后陛下。王女殿下の社交界デビュー、おめでとうございます」
「宰相、ここまでの飾りつけ、ご苦労でした。わたくしも陛下も、王女も大変満足しています」
鶴のように細い皇后が甲高い声で言う。その顔には、誇らしさよりもむしろ、心配の色が濃い。
傍らに立つ国王も、心配そうに娘を見つめる。
枯れ木のような老人が腰を折る。
「両陛下、やはり、ご心配ですかな」
「そ、それは……もちろん。一大イベントですから……粗相があってはなりません」
一人で会場散策をしていた王女が、両親の元へ駆け戻ってくる。愛らしい見た目と、華やかなオーラは社交界の主役になるに十分だ。
「お父さま、お母さま」
ふふ、と微笑むと笑窪ができる。
「わたくし、欲しいものが出来ました」
「……ん? 何かな?」
「わたくしだけの神殿……いえ、神はいらないわ。わたくしは神同然ですもの。離宮や別荘でも構わないわ。とにかく真っ白い豪華な建物を新しく建ててくださいません?」
両親と宰相が、思わず顔を見合わせる。
その仕草が気に入らなかったのか、王女は眉根を寄せて不快感をあらわにした。慌てて宰相が腰を折る。
「直ちに、建築可能かどうか、検討いたします」
「検討? そんなものは必要ないの。わたくしが欲しいと言ったものは、必ず手に入れる。つまり、すぐに建てなさい」
「しかし! 土地も建材も、工夫も……」
「何? 問題ある?」
「民は、貧苦に喘いで……」
「わたくしが、希望しているのよ。早く手に入れなさい」
王女の白い手が翻って、老人の頬立て続けに打ち、そのまま身を翻す。
どさり、と宰相は尻もちをつく。それを助け起こそうとした国王だが、「陛下、お構いなく」と宰相が首を横に振る。案の定、その国王の背を、娘が蹴とばす。
「……わかった? すぐに取り掛からないと、もっとひどいことになるわよ!」
「おまちなさい! わがままが過ぎましょう。お父さまと宰相に、謝罪なさい」
「うるさいわね、わたくしは次期王位継承者、わたくしに逆らうことは許さないわ」
ぱん、と渇いた音がして王女が頬をおさえる。
「考え違いも、いい加減になさい」
「なんですって? 不敬はなはだしいわね!」
己が打たれた数倍もの渇いた音が響く。母の顔が赤くなり、唇が切れ血が滲むがお構いなし。
王の手を借りて起き上がった宰相が、王女にしがみついた。
「どうか……どうか、お許しください。すぐに、工事に取り掛かります……」
「最初からそう言えばよかったのよ、お馬鹿さん」
何を見ているの、と、周囲の人たちを数人引っ叩いた王女は、不機嫌なまま、大広間を後にした。