本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
第9章 5 おばさんと私
あの日から数日が経過していた。
川口さんとすみれさんの修羅場を目撃した為に巻き込まれた翌日の朝、郵便受けには消印の無い手紙が入っていた。手紙の差出人は川口さんで私に対して申し訳ないことをしてしまったという内容の謝罪文だった。すみれさんの事はきちんと説得して解決したから気にしなくて大丈夫と記されていて、さらに何故か手紙には川口さんの携帯の電話番号とメールアドレスが最後に添えられていた。川口さんが私にわざわざ自分の連絡先を書いてきたのは意味不明だったけども私はその連絡先を登録することも、自分から川口さんに連絡することもしなかった。ただ手紙は捨てる事も出来ず、とりあえず部屋のチェストの引き出しにしまってある。
「ふう~今日もいい天気…」
ダウンコートを着込み、外に出てきた私は空を仰ぎ見た。今日は仕事が休みなので亮平に言われていたお姉ちゃんの私物を取りに久しぶりに我が家に帰る。駅までの道のりをとぼとぼ歩いていると、亮平からメールが入ってきた。立ち止まってショルダーバックからメールを開くと短く1文だけ書かれていた。
『悪いな、宜しく頼むよ』
「…」
無言でスマホの画面を閉じ、再び私は駅へ向かって歩き出した。
JR総武線に乗って千駄ヶ谷駅へ降りった私は溜息をついた。今の時間は午前11時。1月の割に太陽の日差しと風も無い穏やかな天候なのでいつもよりは少し暖かく感じる街中を懐かしい我が家へ足を向ける。
久しぶりに歩く道はどれも懐かしさを感じるけれどもほんの数カ月で様変わりしている場所もいくつかあった。
高校生の時に亮平と、たまにお姉ちゃんとも一緒に行ったカラオケボックスのお店は無くなっていた。そして大学時代、私がバイトしていたファミレスは別のチェーン店に代わっていた。
「ほんとに町の景色ってすぐに変わっちゃうんだ…」
その時、前方からよく知る人がこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。
あ…あの人は…
「まあ…鈴音ちゃんじゃない!」
その人は亮平のお母さんだった――
****
「いいでんすか、おばさん。買い物に行く途中だったんですよね?」
「いいのいいの、だって鈴音ちゃんに会ったんだから買い物は後で行くわ」
私とおばさんは自宅へ向けて並んで歩いている。
「あ、おばさん。この間は色々おかずを頂いてありがとうございます」
「いいのよ、鈴音ちゃん。ついつい1人暮らしだと食事がおろそかになるでしょう?」
そして私をチラリと見た。あ…やっぱり…。するとおばさんは私が思っているのと同じ事を言ってきた。
「鈴音ちゃん。食事ちゃんと食べてる?亮平が気にしていたのよ?鈴音ちゃんはますます痩せてしまったって…。顔色も悪いし…身体大丈夫なの?」
「はい、大丈夫です。ただ最近、ちょっと食欲があまりなくて」
私はすっかりぺったんこになってしまった自分のお腹を触った。
「今日は忍ちゃんの入院している病院へ行くのよね?」
「はい、お姉ちゃんの必要そうな私物を病院に届けに行くんです」
「面会にはいくの?」
おばさんの発言に私は首を振った。
「いいえ、まさか!亮平から聞いたんですけど、主治医の先生の話によると私とお姉ちゃんは当分会わない方がいいそうなので」
それに、何より私が今はまだ会いたくない。会えばきっと厳しい言葉を投げつけられるに決まっているから…。
「そう…」
おばさんは少し考えこんだ顔をしていたけれども、顔を上げた。
「ねえ鈴音ちゃん。実は提案があるんだけど…忍ちゃんは当分入院になって家に帰らない状況だったら入院している間だけでも家に戻ってらっしゃいよ。そうすれば鈴音ちゃんの食事の面倒をいつでも見てあげられるから」
おばさんの提案は驚くべきものだった――
川口さんとすみれさんの修羅場を目撃した為に巻き込まれた翌日の朝、郵便受けには消印の無い手紙が入っていた。手紙の差出人は川口さんで私に対して申し訳ないことをしてしまったという内容の謝罪文だった。すみれさんの事はきちんと説得して解決したから気にしなくて大丈夫と記されていて、さらに何故か手紙には川口さんの携帯の電話番号とメールアドレスが最後に添えられていた。川口さんが私にわざわざ自分の連絡先を書いてきたのは意味不明だったけども私はその連絡先を登録することも、自分から川口さんに連絡することもしなかった。ただ手紙は捨てる事も出来ず、とりあえず部屋のチェストの引き出しにしまってある。
「ふう~今日もいい天気…」
ダウンコートを着込み、外に出てきた私は空を仰ぎ見た。今日は仕事が休みなので亮平に言われていたお姉ちゃんの私物を取りに久しぶりに我が家に帰る。駅までの道のりをとぼとぼ歩いていると、亮平からメールが入ってきた。立ち止まってショルダーバックからメールを開くと短く1文だけ書かれていた。
『悪いな、宜しく頼むよ』
「…」
無言でスマホの画面を閉じ、再び私は駅へ向かって歩き出した。
JR総武線に乗って千駄ヶ谷駅へ降りった私は溜息をついた。今の時間は午前11時。1月の割に太陽の日差しと風も無い穏やかな天候なのでいつもよりは少し暖かく感じる街中を懐かしい我が家へ足を向ける。
久しぶりに歩く道はどれも懐かしさを感じるけれどもほんの数カ月で様変わりしている場所もいくつかあった。
高校生の時に亮平と、たまにお姉ちゃんとも一緒に行ったカラオケボックスのお店は無くなっていた。そして大学時代、私がバイトしていたファミレスは別のチェーン店に代わっていた。
「ほんとに町の景色ってすぐに変わっちゃうんだ…」
その時、前方からよく知る人がこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。
あ…あの人は…
「まあ…鈴音ちゃんじゃない!」
その人は亮平のお母さんだった――
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「いいでんすか、おばさん。買い物に行く途中だったんですよね?」
「いいのいいの、だって鈴音ちゃんに会ったんだから買い物は後で行くわ」
私とおばさんは自宅へ向けて並んで歩いている。
「あ、おばさん。この間は色々おかずを頂いてありがとうございます」
「いいのよ、鈴音ちゃん。ついつい1人暮らしだと食事がおろそかになるでしょう?」
そして私をチラリと見た。あ…やっぱり…。するとおばさんは私が思っているのと同じ事を言ってきた。
「鈴音ちゃん。食事ちゃんと食べてる?亮平が気にしていたのよ?鈴音ちゃんはますます痩せてしまったって…。顔色も悪いし…身体大丈夫なの?」
「はい、大丈夫です。ただ最近、ちょっと食欲があまりなくて」
私はすっかりぺったんこになってしまった自分のお腹を触った。
「今日は忍ちゃんの入院している病院へ行くのよね?」
「はい、お姉ちゃんの必要そうな私物を病院に届けに行くんです」
「面会にはいくの?」
おばさんの発言に私は首を振った。
「いいえ、まさか!亮平から聞いたんですけど、主治医の先生の話によると私とお姉ちゃんは当分会わない方がいいそうなので」
それに、何より私が今はまだ会いたくない。会えばきっと厳しい言葉を投げつけられるに決まっているから…。
「そう…」
おばさんは少し考えこんだ顔をしていたけれども、顔を上げた。
「ねえ鈴音ちゃん。実は提案があるんだけど…忍ちゃんは当分入院になって家に帰らない状況だったら入院している間だけでも家に戻ってらっしゃいよ。そうすれば鈴音ちゃんの食事の面倒をいつでも見てあげられるから」
おばさんの提案は驚くべきものだった――