本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

第9章 7 心温まるナポリタン

「はい、どうぞ。鈴音ちゃん」

ダイニングテーブルの椅子に座った私の席の前におばさんが湯気の立つ、熱々のナポリタンの乗ったお皿を置いてくれた。ウィンナーや玉ねぎ、ピーマン…色々な具材が乗っていてとてもおいしそうだったし、ケチャップの匂いも私の食欲を刺激した。

「いただきます…」

手を合わせて、フォークでくるくると巻いて口に運ぶ。

「とっても美味しいです…」

おばさんの作ってくれたナポリタンは冷たく冷え切った私の心を温めてくれた。

「お替り、あるから沢山食べてね?」

おばさんは優しい笑みを浮かべると自分もフォークを持つ。

「さて、それじゃ私も食べようかしら」

そしておばさんもナポリタンを口に運び…。

「あら、やっぱり美味しいじゃない。亮平に前にナポリタンを作って出したら『こんなケチャップ味なんて子供じみたもの作るな』なんて言われたけど、結局全部食べ終えてしまったし、後で確認したらフライパンに残っていたナポリタンも1人で食べてしまっていたのよ?」

「フフフ…亮平らしいですね」


「あ~やっぱり女の子っていいわね。男は駄目よ、乱暴だし、がさつだし。でも鈴音ちゃんとだったらこんなに穏やかな時間を過ごせるのにねぇ」

おばさんは溜息をつきながらナポリタンを口に運んでいる。

「でも、亮平もいいところありますよ?相手の事親身になって真剣に向き合ってくれるし、優しいところも沢山あるし…」

でも…それらは全て私に向けられたものじゃない。亮平に取っての全てはお姉ちゃんなんだから…。そんな事を考えていると、再び目頭が熱くなってきたので私は何度も目をこすって涙をこらえた。

「…」

おばさんはそんな私の様子に気が付いているのか、何も問いかけずに、お料理の話や最近夢中になっているドラマの話などを私に話し続けてくれた――



「おばさん。ごちそうさまでした。片付けやりますね」

食べ終えた食器をキッチンへ運ぼうとするとおばさんが引き留めてきた。

「いいのよ、鈴音ちゃん。それより病院に行かないといけないんでしょう?」

「ええ、そうなんですけど…」

「後片付けはいいから、準備してらっしゃいな」

「はい、ではお言葉に甘えて…」


そしておばさんに挨拶すると、私は再び家に戻り、お姉ちゃんの残りの衣類の準備を終わらせた。

「…」

荷造りが終わると、私はポケットからそっと写真を取り出した。何度も切り付けられた私の姿…。お姉ちゃんはどんな気持ちでこの写真を傷つけたのだろう…。私はこの写真をこのままここに残しておくのが怖かった。こんなところに置いておくくらいなら…自分の手元で管理しておきたかった。

「ごめんなさい…お姉ちゃん。この写真、持っていくね」

そっと呟くと私はコートのポケットに写真を入れると、戸締りをして家を出た。



ピンポーン

亮平の家のインターホンを押すとすぐにおばさんが出てきた。

「あら、鈴音ちゃん。病院に行く準備、終わったの?」

おばさんは私の手荷物を見ると尋ねてきた。

「はい、これからお姉ちゃんの入院する病院に行ってきますね」

「病院に行った後はどうするの?」

「そうですね。今日はマンションに帰って明日仕事が終わったら家に戻ろうかと思っています」

「お布団はあるのかしら?」

「客布団があったと思うんですけど、ずっと押し入れだったからカビ臭いかも…」

「なら明日はお天気らしいから私が布団干しといてあげるわ。合い鍵は亮平が持っているからそれを借りるわ」

「そ、そうなんですか?ありがとうございます」

おばさんにお礼を言いながら私は密かに動揺していた。合い鍵…いつの間に持っていたんだろう?でも考えてみれば2人は恋人同士だし、お姉ちゃんは心の病気にかかっている。合い鍵位持っていても当然だよね…?

「おばさん。本当にありがとうございました。それでは今日はこの辺で失礼しますね」

頭を下げるとおばさんは手を振ってお見送りをしてくれた。


 亮平の家を出ると、私は空を見上げた。

雲一つない澄み渡った青い空。

そして私は思う。

いつになったら私の心も晴れわたるのだろう…と――
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