本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
第9章 9 憎まれる理由
声を掛けられて振り向くと、そこには白衣を着た30前後の若い男性医師の姿があった。とてもハンサムな男性でモデルのような外見をしていた。
「あ、あの…」
戸惑っていると医師は会釈した。
「初めまして。私が加藤忍さんの主治医になった笠井と申します。どうぞよろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いいたします」
「大切なお話があります。ここではちょっと話すことが出来ないので面談室へご案内します。こちらへどうぞ」
笠井先生に促され、私は席を立つと前を歩く先生の後を追った。
****
「こちらへお掛け下さい」
案内された部屋は6畳ほどの広さで、テーブルを挟んで、椅子が一脚ずつ置かれていた。
「失礼します」
椅子に座ると笠井先生もすぐに座り、口を開いた。
「お話というのは、お姉さんの今の状況と貴女との事についてです」
「は、はい」
緊張する面持ちで私は返事をした。
「まず、お姉さんですが…婚約者がいらしたんですよね?」
「ええ、そうです。でも交通事故で亡くなってしまいましたが」
「はい、連れてきてくれた男性から伺いました。しかし忍さんはそれをまだ認めていない。婚約者はまだ生きていると思っていた。そしてその相手が今のお姉さんの恋人である男性だと聞いています」
「…」
私は黙って次の先生の話を待った。
「ところが、今忍さんはどうやら今度は私の事を婚約者だと思い込んでしまっています。婚約者の死を受け入れたくないのでしょうね。でもこのままではいけません。投薬をして精神が落ち着いてきたところを見計らい、少しずつ現実を直視できるように今後導いていきたいと思います」
「どうぞよろしくお願いします」
「ですが、その前に今一番問題なのは…忍さんと、妹さんである貴女との関係です」
「!」
私は緊張が走るのを感じた。
「何故なのでしょうと思いました。何故お姉さんは貴女をそこまで憎むのか不思議に思ったんです。それで催眠療法を試すことにしました」
「催眠療法…ですか?」
「はい、眠っている患者の潜在意識に語り掛け…何故そうなったのか原因を追究する方法です。まだあまり日本では実施されていないのですが…私は催眠療法を使える医師の1人なので。そこで理由が分かりました」
「どんな理由だったのですか?」
「忍さんは、ずっとコンプレックスを持っていたんです。自分は加藤家の養子であることに」
え…?
私はその言葉に耳を疑った。
「あ、あの…ちょっと待って下さい…。姉は養子だったのですか…?」
「え?まさかご存じなかったのですか?あ…だから尚更彼女は貴女を強く憎んだのかも…」
「私…全然知りませんでした。姉が養子だったなんて…!」
お父さんもお母さんも今まで一度だってそんな話してくれたことは無かったし、素振りも感じなかった。
「忍さんは自分が養子であることは知っていました。4歳の時に引き取られたそうなのですが…よほど印象に残っていたのでしょうね。記憶に残っていたのですから」
「そ、そんな…」
「そして5歳の時に貴女が生まれた。加藤家の本当の娘として…。その時、子供ながらに思ったそうです。自分は本当の子供では無いから、いらなくなって捨てられてしまうかもしれないと。だから捨てられない為に貴女を一生懸命可愛がったそうです。本当は憎く思いながら…」
「!」
「両親が亡くなった時、彼女は家を出ようと思ったそうです。もうあの家にいる必要はないだろうと…しかし、どうしても貴女を置いて出る事が出来なかったそうです」
「そ、そんな…」
私は身体の震えが止まらなかった。
「忍さんは言っていました。今まで自分が付き合ってきた男性は何故か皆妹の方を好きになってしまうと。婚約者だった相手にも本当は別れを告げられていたと話してくれました。妹を好きになってしまったから別れて欲しいと」
「…!」
私はようやく分かった。何故そこまでお姉ちゃんに憎まれるのか。その理由はたった一つ。私は何も知らずにお姉ちゃんの大切なものを奪っていたんだ。
本当は最初から私は嫌われていた。それなのに私はちっともそのことに気づかず…。
いつしか、私は笠井先生の前で大粒の涙を流していた――
「あ、あの…」
戸惑っていると医師は会釈した。
「初めまして。私が加藤忍さんの主治医になった笠井と申します。どうぞよろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いいたします」
「大切なお話があります。ここではちょっと話すことが出来ないので面談室へご案内します。こちらへどうぞ」
笠井先生に促され、私は席を立つと前を歩く先生の後を追った。
****
「こちらへお掛け下さい」
案内された部屋は6畳ほどの広さで、テーブルを挟んで、椅子が一脚ずつ置かれていた。
「失礼します」
椅子に座ると笠井先生もすぐに座り、口を開いた。
「お話というのは、お姉さんの今の状況と貴女との事についてです」
「は、はい」
緊張する面持ちで私は返事をした。
「まず、お姉さんですが…婚約者がいらしたんですよね?」
「ええ、そうです。でも交通事故で亡くなってしまいましたが」
「はい、連れてきてくれた男性から伺いました。しかし忍さんはそれをまだ認めていない。婚約者はまだ生きていると思っていた。そしてその相手が今のお姉さんの恋人である男性だと聞いています」
「…」
私は黙って次の先生の話を待った。
「ところが、今忍さんはどうやら今度は私の事を婚約者だと思い込んでしまっています。婚約者の死を受け入れたくないのでしょうね。でもこのままではいけません。投薬をして精神が落ち着いてきたところを見計らい、少しずつ現実を直視できるように今後導いていきたいと思います」
「どうぞよろしくお願いします」
「ですが、その前に今一番問題なのは…忍さんと、妹さんである貴女との関係です」
「!」
私は緊張が走るのを感じた。
「何故なのでしょうと思いました。何故お姉さんは貴女をそこまで憎むのか不思議に思ったんです。それで催眠療法を試すことにしました」
「催眠療法…ですか?」
「はい、眠っている患者の潜在意識に語り掛け…何故そうなったのか原因を追究する方法です。まだあまり日本では実施されていないのですが…私は催眠療法を使える医師の1人なので。そこで理由が分かりました」
「どんな理由だったのですか?」
「忍さんは、ずっとコンプレックスを持っていたんです。自分は加藤家の養子であることに」
え…?
私はその言葉に耳を疑った。
「あ、あの…ちょっと待って下さい…。姉は養子だったのですか…?」
「え?まさかご存じなかったのですか?あ…だから尚更彼女は貴女を強く憎んだのかも…」
「私…全然知りませんでした。姉が養子だったなんて…!」
お父さんもお母さんも今まで一度だってそんな話してくれたことは無かったし、素振りも感じなかった。
「忍さんは自分が養子であることは知っていました。4歳の時に引き取られたそうなのですが…よほど印象に残っていたのでしょうね。記憶に残っていたのですから」
「そ、そんな…」
「そして5歳の時に貴女が生まれた。加藤家の本当の娘として…。その時、子供ながらに思ったそうです。自分は本当の子供では無いから、いらなくなって捨てられてしまうかもしれないと。だから捨てられない為に貴女を一生懸命可愛がったそうです。本当は憎く思いながら…」
「!」
「両親が亡くなった時、彼女は家を出ようと思ったそうです。もうあの家にいる必要はないだろうと…しかし、どうしても貴女を置いて出る事が出来なかったそうです」
「そ、そんな…」
私は身体の震えが止まらなかった。
「忍さんは言っていました。今まで自分が付き合ってきた男性は何故か皆妹の方を好きになってしまうと。婚約者だった相手にも本当は別れを告げられていたと話してくれました。妹を好きになってしまったから別れて欲しいと」
「…!」
私はようやく分かった。何故そこまでお姉ちゃんに憎まれるのか。その理由はたった一つ。私は何も知らずにお姉ちゃんの大切なものを奪っていたんだ。
本当は最初から私は嫌われていた。それなのに私はちっともそのことに気づかず…。
いつしか、私は笠井先生の前で大粒の涙を流していた――