本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
第10章 6 同じようで違う朝
8時――
出勤の為に玄関に出てきた私は家の鍵をかけていると、背後から声を掛けられた。
「おはよう、鈴音」
呼ばれて振り向くと、そこには背広姿にコートを着てビジネスバッグを持った亮平が白い息を吐きながら門の外に立っていた。
「あ、おはよう。亮平」
昨夜見てしまったお姉ちゃんの日記帳の事を思い出した私は何となく亮平と目を合わせにくくて、視線をそらせながら朝の挨拶をした。
「鈴音、今から駅に行くんだろう? 一緒に行こうぜ」
そんな私の様子に気付いていないのか、亮平が声をかけて来る。
「う、うん。そうだね…一緒に行こうか?」
玄関のカギをショルダーバックにしまうと、私は門の扉を閉めて亮平の傍へ行った。
「よし、行くか」
「うん…」
そして私と亮平は並んで駅まで歩き始めた。
「そう言えば…」
歩き始めてすぐに亮平が口を開いた。
「何?」
「考えてみればお互いに就職してもうすぐ1年になるって言うのに…何で俺と鈴音は今まで一緒に通勤した事無かったんだろうな?」
亮平が青い空を見上げながら不思議そうに首を傾げる。
「う、うん…そうだね。何でだろうね?」
笑ってごまかした。昨日までの私ならやっぱり亮平と同じことをかんがえたかもしれないけど…今の私ならその理由が分かる。昨夜お姉ちゃんの日記を読んでしまったから。昨夜の事を思い出して、俯いていると…。
「どうした? 鈴音?」
名前を呼ばれて顔を上げると、そこには私の顔を覗き込んでいる亮平がいた。思いがけない程至近距離に亮平の顔があったので驚いて大きな声をあげてしまった。
「キャアッ! な、何っ!?」
「いや? 考え事していたみたいだから…それに何だかお前、今朝は様子がおかしいぞ? 何かあったのか?」
「う、ううん。何でもないよ。それより亮平だって珍しいじゃない。いつもなら朝玄関で私と会っても挨拶だけで今まで…」
そこまで言いかけて私は口を閉ざした。そうだ、それも全てお姉ちゃんが原因だったんだ。今迄の私は単に亮平が私に何の関心も持っていないから、家の前で偶然会っても挨拶だけで済ませているのかと思っていたけど…本当はそうじゃなかった…。
「おい、本当に一体どうしたんだよ、鈴音…」
亮平が溜息をつきながら空を見た。
「…今日もいい天気だな」
「うん、そうだね。きっとこの分なら今日の仕事は外でビラ配りかもしれないな」
何気なく言った言葉だったけど、亮平が反応した。
「何? 今日はビラ配りなのか? それって…肉体的労働だよな?」
「う、うん。確かに肉体的って言われればそうかもしれないけど…?」
「だったら仕事が始まる前にコンビニかどこかで栄養ドリンクでも買って飲んでおけよ? 本当に最近のお前は顔色は悪いし、ガリガリになってしまったし…母さんも父さんもすごく鈴音の事心配してるんだからな?」
ここまではいつもと同じ。おじさんとおばさんが私の事を心配していると言う言葉はもう数えきれないくらい亮平の口から聞かされてきた。でもそれだけ。亮平自身からは私を心配しているという言葉は出てきたことが無い。だけど…今朝は違った。
「俺もお前の事心配しているんだからな?」
「え?」
私は顔を上げて亮平を見た。今…何て言ったの?
「な、何だよ?」
亮平は私があまりにも顔を凝視しているからなのか、上ずった声を出した。
「う、ううん…別に…」
私は視線を前に移すと、もう目の前には千駄ヶ谷駅が見えていた。
「じゃあな、鈴音」
「うん、またね」
駅の改札のホームで私と亮平は挨拶を交わした。亮平の勤務先は新宿で、私の勤務先は錦糸町。それぞれ反対側の電車に乗る。
亮平に手を振って、ホームへ向かおうとした時…。
「鈴音っ!」
不意に名前を呼ばれて振り向いた。
「何?」
「ちゃんと栄誉ドリンク買って飲むんだぞ?!」
亮平が大声で言った。
「うん、分かってるってば。じゃあね」
私は笑って手を振るとホームへと降りて行った。
ホームで電車を待ちながら、私は思った。
今朝の亮平はいつになく優しかったな――
出勤の為に玄関に出てきた私は家の鍵をかけていると、背後から声を掛けられた。
「おはよう、鈴音」
呼ばれて振り向くと、そこには背広姿にコートを着てビジネスバッグを持った亮平が白い息を吐きながら門の外に立っていた。
「あ、おはよう。亮平」
昨夜見てしまったお姉ちゃんの日記帳の事を思い出した私は何となく亮平と目を合わせにくくて、視線をそらせながら朝の挨拶をした。
「鈴音、今から駅に行くんだろう? 一緒に行こうぜ」
そんな私の様子に気付いていないのか、亮平が声をかけて来る。
「う、うん。そうだね…一緒に行こうか?」
玄関のカギをショルダーバックにしまうと、私は門の扉を閉めて亮平の傍へ行った。
「よし、行くか」
「うん…」
そして私と亮平は並んで駅まで歩き始めた。
「そう言えば…」
歩き始めてすぐに亮平が口を開いた。
「何?」
「考えてみればお互いに就職してもうすぐ1年になるって言うのに…何で俺と鈴音は今まで一緒に通勤した事無かったんだろうな?」
亮平が青い空を見上げながら不思議そうに首を傾げる。
「う、うん…そうだね。何でだろうね?」
笑ってごまかした。昨日までの私ならやっぱり亮平と同じことをかんがえたかもしれないけど…今の私ならその理由が分かる。昨夜お姉ちゃんの日記を読んでしまったから。昨夜の事を思い出して、俯いていると…。
「どうした? 鈴音?」
名前を呼ばれて顔を上げると、そこには私の顔を覗き込んでいる亮平がいた。思いがけない程至近距離に亮平の顔があったので驚いて大きな声をあげてしまった。
「キャアッ! な、何っ!?」
「いや? 考え事していたみたいだから…それに何だかお前、今朝は様子がおかしいぞ? 何かあったのか?」
「う、ううん。何でもないよ。それより亮平だって珍しいじゃない。いつもなら朝玄関で私と会っても挨拶だけで今まで…」
そこまで言いかけて私は口を閉ざした。そうだ、それも全てお姉ちゃんが原因だったんだ。今迄の私は単に亮平が私に何の関心も持っていないから、家の前で偶然会っても挨拶だけで済ませているのかと思っていたけど…本当はそうじゃなかった…。
「おい、本当に一体どうしたんだよ、鈴音…」
亮平が溜息をつきながら空を見た。
「…今日もいい天気だな」
「うん、そうだね。きっとこの分なら今日の仕事は外でビラ配りかもしれないな」
何気なく言った言葉だったけど、亮平が反応した。
「何? 今日はビラ配りなのか? それって…肉体的労働だよな?」
「う、うん。確かに肉体的って言われればそうかもしれないけど…?」
「だったら仕事が始まる前にコンビニかどこかで栄養ドリンクでも買って飲んでおけよ? 本当に最近のお前は顔色は悪いし、ガリガリになってしまったし…母さんも父さんもすごく鈴音の事心配してるんだからな?」
ここまではいつもと同じ。おじさんとおばさんが私の事を心配していると言う言葉はもう数えきれないくらい亮平の口から聞かされてきた。でもそれだけ。亮平自身からは私を心配しているという言葉は出てきたことが無い。だけど…今朝は違った。
「俺もお前の事心配しているんだからな?」
「え?」
私は顔を上げて亮平を見た。今…何て言ったの?
「な、何だよ?」
亮平は私があまりにも顔を凝視しているからなのか、上ずった声を出した。
「う、ううん…別に…」
私は視線を前に移すと、もう目の前には千駄ヶ谷駅が見えていた。
「じゃあな、鈴音」
「うん、またね」
駅の改札のホームで私と亮平は挨拶を交わした。亮平の勤務先は新宿で、私の勤務先は錦糸町。それぞれ反対側の電車に乗る。
亮平に手を振って、ホームへ向かおうとした時…。
「鈴音っ!」
不意に名前を呼ばれて振り向いた。
「何?」
「ちゃんと栄誉ドリンク買って飲むんだぞ?!」
亮平が大声で言った。
「うん、分かってるってば。じゃあね」
私は笑って手を振るとホームへと降りて行った。
ホームで電車を待ちながら、私は思った。
今朝の亮平はいつになく優しかったな――