本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
第11章 10 姉の生きがい
「忍……今は俺の事を認識しているけど、笠井先生を進だと思っているんだよ……」
亮平は辛そうな顔を浮かべる。
「お姉ちゃん、まだ笠井先生の事を進さんだと思っているんだね?」
「ああ。そうなんだ」
やっぱりお姉ちゃんは進さんが交通事故で死んだ事を認めたくないんだ。
でもそれは無理も無い話かもしれない。だって進さんが交通事故で死んだのは……。
「鈴音」
その時、不意に亮平が声をかけてきた。
「何?」
「鈴音の目から見て、忍は俺の事一度でも好きになってくれた事あると思うか?」
亮平は真剣な目で尋ねてきた。私はでも正直なところ、今となってはお姉ちゃんの亮平に対する思いを完全に疑っていた。だってあんなに沢山のマインドコントロールについての本や、催眠暗示の本が置いてあったから。それにお姉ちゃんには進さんて言う結婚まで約束していた婚約者がいた。けど、何故か進さんからは婚約を解消してもらいたいって言われたみたいだけど。でも、そのせいであんな悲劇が……。
だけど、今不安そうな目で私を見ている亮平に、自分の感じた事をストレートに伝える事が出来なかった。
「う~ん……お姉ちゃんは多分、亮平の事ちゃんと好きになってくれていたと思うよ? だって2人でディズニーリゾートへ行った時お姉ちゃん、とても喜んでいてくれたんでしょう?」
「あ、ああ。そうなんだ。忍はすごく喜んでくれたよ。本当にあの時は楽しかったな。2人で行ったディズニーリゾート……」
亮平が懐かしそうに語るのを私は複雑な思いで見つめていた。私だって一度でいいから亮平とディズニーリゾートへ行ってみたかった。でもそんな事は絶対に口に出すわけにはいかない。きっと断られるに決まってるから。
「そうだよ、だから心配する事無いよ。お姉ちゃんの精神状態が回復したらきっとまたお姉ちゃんは亮平の所へ戻って来てくれるよ」
だって、お姉ちゃんの本当の目的は私を苦しめる事だから。今まではそんな風に思いたくは無かったけど……。
その時――
ボーン
ボーン
店内に掛けてあるアンティークの振り子時計が16時を知らせる音を鳴らした。
もう、こんな時間だったんだ……。
「亮平。私、そろそろ帰るから」
立ち上がり、コートを羽織った。
「ああ、そうだったな。お前はこれから電車に乗ってマンションへ帰るんだっけ?」
「うん、そうなの。だからあまり長居出来なくて。明日も仕事だしね」
「そうだよな。よし、それじゃ行くか。駅まで送ってやるから」
「ありがとう、助かるよ」
伝票を取ろうとすると、亮平がサッと先に手を伸ばして伝票を取ってしまった。
「あ……亮平。支払い……」
「いいって。俺が誘ったんだから、俺が支払うよ」
「でも、自分の分くらいは自分で払うよ」
「気にするなって。鈴音は1人暮らしで大変だろう? 俺は実家暮らしで気楽な身分なんだから」
亮平にそこまで言われたのでお言葉に甘える事にした。
「うん、ありがとう」
「よし、それじゃ行くか」
伝票を持った亮平の後に私は続いた――
駅までの車内ではお姉ちゃんの事は触れずに、2人でたわいも無い話をした。今流行しているテレビドラマの話や、読んでいる本や漫画の話。私と亮平はお互いにお姉ちゃんの話を意図的に避けていた。何となく今、この瞬間だけは何も知らなかった昔の頃に戻りたかったから……。
「ありがとう、送ってくれて」
駅近くの道路で降ろして貰った。
「悪いな、マンションまで送ってやれなくて」
亮平は運転席から顔を覗かせた。
「いいよ、そんな事気にしなくて。それじゃあね」
「ああ。じゃあな」
今の私達の間には『また』と言う言葉は存在しない。そして私は亮平に背を向け、駅へ向かって歩いて行く。その直後、背後で車が走り去っていく音が聞こえた。
「亮平……」
私は振り向き、亮平を乗せた車が走り去っていく姿を見つめながらポツリと呟いた。
「亮平……お姉ちゃんね……私を苦しめる事を人生の生きがいにするんだって。だから、安心して。お姉ちゃんはきっと亮平の所へ戻って来てくれるよ……」
空にはいつの間にか一番星が浮かんでいた――
亮平は辛そうな顔を浮かべる。
「お姉ちゃん、まだ笠井先生の事を進さんだと思っているんだね?」
「ああ。そうなんだ」
やっぱりお姉ちゃんは進さんが交通事故で死んだ事を認めたくないんだ。
でもそれは無理も無い話かもしれない。だって進さんが交通事故で死んだのは……。
「鈴音」
その時、不意に亮平が声をかけてきた。
「何?」
「鈴音の目から見て、忍は俺の事一度でも好きになってくれた事あると思うか?」
亮平は真剣な目で尋ねてきた。私はでも正直なところ、今となってはお姉ちゃんの亮平に対する思いを完全に疑っていた。だってあんなに沢山のマインドコントロールについての本や、催眠暗示の本が置いてあったから。それにお姉ちゃんには進さんて言う結婚まで約束していた婚約者がいた。けど、何故か進さんからは婚約を解消してもらいたいって言われたみたいだけど。でも、そのせいであんな悲劇が……。
だけど、今不安そうな目で私を見ている亮平に、自分の感じた事をストレートに伝える事が出来なかった。
「う~ん……お姉ちゃんは多分、亮平の事ちゃんと好きになってくれていたと思うよ? だって2人でディズニーリゾートへ行った時お姉ちゃん、とても喜んでいてくれたんでしょう?」
「あ、ああ。そうなんだ。忍はすごく喜んでくれたよ。本当にあの時は楽しかったな。2人で行ったディズニーリゾート……」
亮平が懐かしそうに語るのを私は複雑な思いで見つめていた。私だって一度でいいから亮平とディズニーリゾートへ行ってみたかった。でもそんな事は絶対に口に出すわけにはいかない。きっと断られるに決まってるから。
「そうだよ、だから心配する事無いよ。お姉ちゃんの精神状態が回復したらきっとまたお姉ちゃんは亮平の所へ戻って来てくれるよ」
だって、お姉ちゃんの本当の目的は私を苦しめる事だから。今まではそんな風に思いたくは無かったけど……。
その時――
ボーン
ボーン
店内に掛けてあるアンティークの振り子時計が16時を知らせる音を鳴らした。
もう、こんな時間だったんだ……。
「亮平。私、そろそろ帰るから」
立ち上がり、コートを羽織った。
「ああ、そうだったな。お前はこれから電車に乗ってマンションへ帰るんだっけ?」
「うん、そうなの。だからあまり長居出来なくて。明日も仕事だしね」
「そうだよな。よし、それじゃ行くか。駅まで送ってやるから」
「ありがとう、助かるよ」
伝票を取ろうとすると、亮平がサッと先に手を伸ばして伝票を取ってしまった。
「あ……亮平。支払い……」
「いいって。俺が誘ったんだから、俺が支払うよ」
「でも、自分の分くらいは自分で払うよ」
「気にするなって。鈴音は1人暮らしで大変だろう? 俺は実家暮らしで気楽な身分なんだから」
亮平にそこまで言われたのでお言葉に甘える事にした。
「うん、ありがとう」
「よし、それじゃ行くか」
伝票を持った亮平の後に私は続いた――
駅までの車内ではお姉ちゃんの事は触れずに、2人でたわいも無い話をした。今流行しているテレビドラマの話や、読んでいる本や漫画の話。私と亮平はお互いにお姉ちゃんの話を意図的に避けていた。何となく今、この瞬間だけは何も知らなかった昔の頃に戻りたかったから……。
「ありがとう、送ってくれて」
駅近くの道路で降ろして貰った。
「悪いな、マンションまで送ってやれなくて」
亮平は運転席から顔を覗かせた。
「いいよ、そんな事気にしなくて。それじゃあね」
「ああ。じゃあな」
今の私達の間には『また』と言う言葉は存在しない。そして私は亮平に背を向け、駅へ向かって歩いて行く。その直後、背後で車が走り去っていく音が聞こえた。
「亮平……」
私は振り向き、亮平を乗せた車が走り去っていく姿を見つめながらポツリと呟いた。
「亮平……お姉ちゃんね……私を苦しめる事を人生の生きがいにするんだって。だから、安心して。お姉ちゃんはきっと亮平の所へ戻って来てくれるよ……」
空にはいつの間にか一番星が浮かんでいた――