本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
第13章 1 私が退院する日
――9月
私が意識を取り戻してから3カ月が経過した。長いリハビリ生活は本当に大変だった。血の滲むような努力の末、ようやく私は日常生活に支障が出ないまでに回復し……今日、私は退院する。
「長い間、本当にお世話になりました」
ボストンバックに入院生活で使用していた私物を持った私はナースステーションに挨拶に来ていた。
「加藤さん、退院おめでとう」
看護師長さんが花束を渡してくれた。
「ありがとうございます」
花束を受け取って挨拶をした。他にも何人もの看護師さんや先生たちが挨拶に来てくれた。
「加藤さん……1人で帰れるのかい?」
私の主治医だった整形外科の先生が尋ねてきた。
「はい、大丈夫です。タクシーで帰りますので」
最後にもう一度挨拶をして私は病棟を後にした――
コツコツ……
私は病院を出て、歩き出した。私は入院期間中、一度も自分から亮平に連絡を入れる事は無かったし亮平からも一度も連絡は来なかった。だから私が今日、退院する事も亮平は当然知らない。
でも……これで良かったんだ。
外は9月で、まだまだ日差しは暑かった。
「ふう……何だか信じられないな……。私が病院に入院したときはまだ2月でとても寒かったのに、もう9月なんだもの」
でも、それだけ私の怪我が重かったと言う事になる。だって半年以上も入院していたことになるのだから。
「アパートに着いたら、おばさんたちに連絡入れよう……」
本当なら家に帰るべきなのかもしれないけれど、私には今お姉ちゃんがどういう状況でいるのかがさっぱり分らなかったので家に帰る選択肢はやめて、アパートを選んだ。だって、仮に家に行ってお姉ちゃんも退院していたら鉢合わせして大変な事になるから……。
病院前のタクシー乗り場でタクシーが到着するのを待っていると、すぐにタクシーがやってきて私の目の前でドアが開いた。タクシーに乗り込むと男性運転手さんが声を掛けてきた。
「どちらまで行かれますか?」
「駅までお願いします」
「はい、分りました」
運転手さんはハンドルを握るとアクセルを踏んだ――
「……」
窓の外を流れる景色を黙って見つめていると、運転手さんが声をかけてきた。
「本日退院されたのですか?」
「え?」
不意に声をかけられて驚いたけれども返事をした。
「ええ……そうですけど。よく分りましたね?」
「もちろん分りますよ。長い間タクシー運転手をしていますからね。いわゆる勘というものですよ。随分入院されていたのではないですか?」
「それも勘というものですか?」
「ええ、そうですね」
「はい。交通事故に遭って半年以上入院していたんです」
「そうなんですか? それは大変でしたね」
私の言葉に流石にタクシー運転手さんは驚いた表情を見せた。
「それで? 半年以上入院していて1人で退院されてきたのですか?」
その声に何となく同情のようなものを感じられたので、慌てて私は答えた。
「あ、違うんです……。色んな人達に迷惑かけちゃいけないと思って誰にも今日退院する事は話していないんです」
「ああ……そうなんですね。でも相当怪我が重かったんですね……」
何となくこのタクシー運転手さん……もし生きていたらお父さんもこのくらいの年齢になっていたかもしれない。そう思うと親しみを感じられた。
「ええ、そうなんですよ。実は……」
こうして私は駅に着くまでの間、タクシー運転手さんと駅までの会話を楽しんだ――
やがてタクシーは駅に到着した。
「ありがとうございました」
頭を下げてタクシーを降りようとしたとき。
「お嬢さん、気を付けて帰るんだよ」
「はい……」
運転手さんは笑みを浮かべると、そのままタクシーで走り去って行った。
「さて……行こう」
ボストンバックを握りしめると、私は駅へと向かった――
私が意識を取り戻してから3カ月が経過した。長いリハビリ生活は本当に大変だった。血の滲むような努力の末、ようやく私は日常生活に支障が出ないまでに回復し……今日、私は退院する。
「長い間、本当にお世話になりました」
ボストンバックに入院生活で使用していた私物を持った私はナースステーションに挨拶に来ていた。
「加藤さん、退院おめでとう」
看護師長さんが花束を渡してくれた。
「ありがとうございます」
花束を受け取って挨拶をした。他にも何人もの看護師さんや先生たちが挨拶に来てくれた。
「加藤さん……1人で帰れるのかい?」
私の主治医だった整形外科の先生が尋ねてきた。
「はい、大丈夫です。タクシーで帰りますので」
最後にもう一度挨拶をして私は病棟を後にした――
コツコツ……
私は病院を出て、歩き出した。私は入院期間中、一度も自分から亮平に連絡を入れる事は無かったし亮平からも一度も連絡は来なかった。だから私が今日、退院する事も亮平は当然知らない。
でも……これで良かったんだ。
外は9月で、まだまだ日差しは暑かった。
「ふう……何だか信じられないな……。私が病院に入院したときはまだ2月でとても寒かったのに、もう9月なんだもの」
でも、それだけ私の怪我が重かったと言う事になる。だって半年以上も入院していたことになるのだから。
「アパートに着いたら、おばさんたちに連絡入れよう……」
本当なら家に帰るべきなのかもしれないけれど、私には今お姉ちゃんがどういう状況でいるのかがさっぱり分らなかったので家に帰る選択肢はやめて、アパートを選んだ。だって、仮に家に行ってお姉ちゃんも退院していたら鉢合わせして大変な事になるから……。
病院前のタクシー乗り場でタクシーが到着するのを待っていると、すぐにタクシーがやってきて私の目の前でドアが開いた。タクシーに乗り込むと男性運転手さんが声を掛けてきた。
「どちらまで行かれますか?」
「駅までお願いします」
「はい、分りました」
運転手さんはハンドルを握るとアクセルを踏んだ――
「……」
窓の外を流れる景色を黙って見つめていると、運転手さんが声をかけてきた。
「本日退院されたのですか?」
「え?」
不意に声をかけられて驚いたけれども返事をした。
「ええ……そうですけど。よく分りましたね?」
「もちろん分りますよ。長い間タクシー運転手をしていますからね。いわゆる勘というものですよ。随分入院されていたのではないですか?」
「それも勘というものですか?」
「ええ、そうですね」
「はい。交通事故に遭って半年以上入院していたんです」
「そうなんですか? それは大変でしたね」
私の言葉に流石にタクシー運転手さんは驚いた表情を見せた。
「それで? 半年以上入院していて1人で退院されてきたのですか?」
その声に何となく同情のようなものを感じられたので、慌てて私は答えた。
「あ、違うんです……。色んな人達に迷惑かけちゃいけないと思って誰にも今日退院する事は話していないんです」
「ああ……そうなんですね。でも相当怪我が重かったんですね……」
何となくこのタクシー運転手さん……もし生きていたらお父さんもこのくらいの年齢になっていたかもしれない。そう思うと親しみを感じられた。
「ええ、そうなんですよ。実は……」
こうして私は駅に着くまでの間、タクシー運転手さんと駅までの会話を楽しんだ――
やがてタクシーは駅に到着した。
「ありがとうございました」
頭を下げてタクシーを降りようとしたとき。
「お嬢さん、気を付けて帰るんだよ」
「はい……」
運転手さんは笑みを浮かべると、そのままタクシーで走り去って行った。
「さて……行こう」
ボストンバックを握りしめると、私は駅へと向かった――