本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
第13章 21 思いがけない提案
「忍さんですが、今はもう日常生活には差支えが無い程に回復しておりますよ。家事もきちんとこなしています。以前は興奮を抑える薬を多めに飲んでいましたが、その量もかなり減りましたね。ただ、まだ社会復帰というか、仕事に行くのは難しいかもしれませんね。以前の仕事にはもう戻れないかもしれません」
「そうですか……」
テーブルの上に置いた両手を私はギュッと握りしめた。お姉ちゃん……仕事好きだったのに……。
「会社には病欠扱いで休みを貰っているんです。幸い、姉は大手の商社に勤務していたので最大3年ほどの休職を認めて貰っていたのですが……退職した方がよさそうですね」
「ええ。その事は忍さんも了承済みです。実はもう退職願を手紙で出してあります。勿論私からも手紙を添えました。すでに退職金も支給されています」
「え? そうなんですかっ!?」
「はい。私の方からその話をすすめました」
「姉は……何と言っていましたか?」
お姉ちゃん……その時、どんな気持ちだったんだろう。
「そうですか、当然ですよねと言っておりました。今の忍さんは仕事をするとすれば、人と接しない業務から進めた方が良いと思うのです。例えば電話の応対が一切無いパソコンの仕事とか、もしくは検品の仕事やピッキング……」
「やはり、まだ人とコミュにケーションを取る仕事は難しいという事ですよね?」
「ええ、そうですね。まずはそのような仕事から初めて、自分に自信が持てるようになれば、次の段階に進んでも良いと思うのですけど」
「でも外に出て働いた方が姉の回復に繋がるのなら私は賛成です。それで、どうしても服部さんに伺いたいことがあるのですが……」
「はい、どのような事ですか?」
私は少しだけ声のトーンを落とした。
「服部さんは……ご存じですよね? 姉が多重人格だという事」
「ああ……『解離性同一症』の事ですね?」
「はい、そうです。私が姉の家を出たのは……その病気が原因だったんです……」
服部さんは黙って私の話を聞いている。
「精神科の先生の話では、姉の中には私を憎む人格が存在しているようで、その人格のせいで私は姉に酷く嫌われて家を出ざるを得なかったんです」
「ええ、お話は伺っております」
「姉の中にはまだ私を憎む人格が残っているのでしょうか? 実は姉からメールを貰ったんです」
「え? メールを?」
服部さんが反応した。
「はい」
「すみません、加藤さん。もし差支え無ければ私にそのメールを見せていただけませんか?」
「ええ、勿論ですよ」
服部さんに言われ、スマホに届いたメールを開いた。
「どうぞ」
「はい、では拝見させていただきます」
服部さんはテーブルの上に置いたスマホを手に取り、じっと食い入るように姉から届いたメールに目を落としていたが……。
「ありがとうございます。読ませていただきました」
「あの、実はまだ姉に返信していないのです。服部さんとお話をしてからメールを打とうかと思って」
「加藤さん」
「はい」
「もしよろしければ、これから私と一緒にご自宅へ行って、忍さんと話をしてみませんか?」
「え……?」
思いがけない服部さんからの提案だった――
「そうですか……」
テーブルの上に置いた両手を私はギュッと握りしめた。お姉ちゃん……仕事好きだったのに……。
「会社には病欠扱いで休みを貰っているんです。幸い、姉は大手の商社に勤務していたので最大3年ほどの休職を認めて貰っていたのですが……退職した方がよさそうですね」
「ええ。その事は忍さんも了承済みです。実はもう退職願を手紙で出してあります。勿論私からも手紙を添えました。すでに退職金も支給されています」
「え? そうなんですかっ!?」
「はい。私の方からその話をすすめました」
「姉は……何と言っていましたか?」
お姉ちゃん……その時、どんな気持ちだったんだろう。
「そうですか、当然ですよねと言っておりました。今の忍さんは仕事をするとすれば、人と接しない業務から進めた方が良いと思うのです。例えば電話の応対が一切無いパソコンの仕事とか、もしくは検品の仕事やピッキング……」
「やはり、まだ人とコミュにケーションを取る仕事は難しいという事ですよね?」
「ええ、そうですね。まずはそのような仕事から初めて、自分に自信が持てるようになれば、次の段階に進んでも良いと思うのですけど」
「でも外に出て働いた方が姉の回復に繋がるのなら私は賛成です。それで、どうしても服部さんに伺いたいことがあるのですが……」
「はい、どのような事ですか?」
私は少しだけ声のトーンを落とした。
「服部さんは……ご存じですよね? 姉が多重人格だという事」
「ああ……『解離性同一症』の事ですね?」
「はい、そうです。私が姉の家を出たのは……その病気が原因だったんです……」
服部さんは黙って私の話を聞いている。
「精神科の先生の話では、姉の中には私を憎む人格が存在しているようで、その人格のせいで私は姉に酷く嫌われて家を出ざるを得なかったんです」
「ええ、お話は伺っております」
「姉の中にはまだ私を憎む人格が残っているのでしょうか? 実は姉からメールを貰ったんです」
「え? メールを?」
服部さんが反応した。
「はい」
「すみません、加藤さん。もし差支え無ければ私にそのメールを見せていただけませんか?」
「ええ、勿論ですよ」
服部さんに言われ、スマホに届いたメールを開いた。
「どうぞ」
「はい、では拝見させていただきます」
服部さんはテーブルの上に置いたスマホを手に取り、じっと食い入るように姉から届いたメールに目を落としていたが……。
「ありがとうございます。読ませていただきました」
「あの、実はまだ姉に返信していないのです。服部さんとお話をしてからメールを打とうかと思って」
「加藤さん」
「はい」
「もしよろしければ、これから私と一緒にご自宅へ行って、忍さんと話をしてみませんか?」
「え……?」
思いがけない服部さんからの提案だった――