本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

第14章 6 3人で食べる親子丼

 この日の夜ご飯は3人でとても穏やかな気持ちで食事をする事が出来た。お姉ちゃんは始終私に優しかった。

「どう? 鈴音ちゃん、親子丼の味は」

お姉ちゃんが隣に座る私に声をかけてきた。

「うん、すごくおいしいよ。特に鶏肉がおいしいね?」

「ああ~良かった。鶏肉奮発した甲斐があったわ。思い切ってスーパーで高級比内地鶏を買ってきたのよ? 鈴音ちゃんにだけ特別に入れてあげたの」

「え……ええっ!? わ、私にだけ……?」

驚いてお姉ちゃんを見た。けれど驚いたのは私だけではなかった。

「えええっ!? そ、それじゃ忍さんっ! 俺の鶏肉は……?」

「ええ、それは普通の鶏肉よ。でも美味しいでしょう?」

お姉ちゃんはニコニコしいる。

「え、ええ……まあ確かにおいしいですよ。ハハハ……」

亮平が乾いた笑い方をする。何だか亮平が少し気の毒になってきた。それにしてもお姉ちゃんが私にだけ気を回すなんて……。

「亮平、私の親子丼に鶏肉沢山入っているから…少しあげようか?」

「え? 本当か!?」

亮平は嬉しそうにパッと顔を上げ……お姉ちゃんの視線を感じたのだろう。

「い、いや……鈴音。お前が全部食べろよ。忍さんだって鈴音の為にわざわざ高級比内地鶏を買って料理してくれたんだから……」

亮平は『高級比内地鶏』の部分を強調して言う。余程食べたいんだろうな……。

「そうよ、亮平君。このお肉は鈴音ちゃんの為に用意したのだから私たちはこっちのお肉でいいのよ。鶏肉の素材自体の味は違うかもしれないけど……同じだし汁で作っているのだから味は同じよ。あ、でも鈴音ちゃんの卵だけは名古屋コーチンだったわ」

「ええっ!?な、名古屋コーチンッ!?」

そんな……食べた事も無い高級卵だったなんてっ! そんな風に言われると、目の前の親子丼がとても高級どんぶりに見えてくるから不思議だ。亮平も心なしか目の色を変えて私の親子丼を凝視している気がする。

「どうしたの? 鈴音ちゃん。遠慮しないで食べてね? 冷めないうちに。あ、麦茶無くなりそうね。今入れてきてあげるわ」

お姉ちゃんは亮平のコップが空っぽなのに、それには気づかず私のコップだけ持って台所へ行った。

「……ねえ、亮平。一口食べてみる?」

お姉ちゃんが台所へ向かった時に小声で聞いてみた。

「……いい。鈴音、お前ひとりで食べろよ。忍さんの好意なんだから……」

亮平の言葉は、どこかいじけて聞こえた――



午後9時――

「鈴音ちゃん。本当に泊まらないで帰っちゃうの?」

玄関まで私を見送りに来たお姉ちゃんが寂しげな様子を見せる。

「うん……明後日から私、仕事だから。それに、ほら。もう雨も止んでるしね?」

あれほど酷かった土砂降りの雨はいつの間にかやんでいた。

「仕事なんて……そんな身体で働きに行けるの?」

「これ以上仕事休むわけにはいかないから」

そろそろ本当に働かないと、いつまでも保険金や慰謝料に頼ってばかりいられないもの。

「大丈夫、忍さん。今夜も俺が鈴音を送るから安心して下さい」

亮平が玄関までやってきた。

「え? でも亮平明日仕事でしょう?」

「別にそれくらい気にするな。最初からお前を送るつもりだったから酒も飲んでいないんだし」

「そうね? それじゃ亮平君にお願いしようかしら」

ようやくお姉ちゃんは亮平が送るという事で納得してくれたみたいだった。玄関に降りて靴を履くと改めてお姉ちゃんに向き直った。

「じゃあね、お姉ちゃん」

「ええ、またね。鈴音ちゃん。あ、あと亮平君」

お姉ちゃんは私の背後に立っている亮平に声をかけた。

「はい、何ですか?」

「鈴音ちゃんは私の大切な妹だから襲っちゃダメよ?」

「「は?」」

あまりのお姉ちゃんの見当違いな言葉に私と亮平の声が重なった。

「やだな~お姉ちゃん。亮平が私にそんな事するはずないでしょう? 大体私たちはただの幼馴染なんだから……ね? 亮……」

笑いながら亮平の方を振り向き、言葉を失ってしまった。

何故ならそこに立つ亮平の顔が真っ赤に染まっていたから――



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