本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

第14章 7 今更の言葉

「ありがとう、亮平。今日も送ってくれて」

私は助手席に乗り込んだ。

「ん? いや……それ位別に気にするな。それじゃ行くか」

亮平はハンドルを握りしめるとアクセルを踏んだ。

「あのね、今日は駅まで送ってくれればいいからね?」

「は? お前、こんな遅い時間に電車で帰るつもりなのか?」

「遅いって言ったってまだ夜の9時だよ? 遅番だったら、大体はこの時間になるんだから……」

「だけどお前、今はもう普通の身体じゃないわけだし……」

「突然眠くなってしまう症状があるって事でしょう? 大丈夫だよ。今日はあの家で4時間も寝ちゃったんだから」

「あ、ああ……そ、そうだな……」

何故か亮平が頬を赤らめて返事をする。……一体どうしたのだろう?

「亮平……どうかしたの?何 だか顔が赤いみたいだけど?」

「い、いや、何でもない!」

「そう……?」

まあ、亮平がそう言うなら別に構わないけれども……。

「でも、亮平は明日も仕事なんだから本当に駅まででいいからね?」

「だけど、俺は……」

「お姉ちゃんに頼まれたからって無理に義理立てることは無いんだよ?」

「え?」

丁度赤信号になり、亮平がこっちを見た。

「鈴音。今何て言った?」

「え? 何のこと?」

何故か険しい顔で亮平が私を見ている。

「忍に頼まれたからって……その後だよ」

「ああ……別に無理に義理立てることは無いって言ったこと?」

「そうだよ! 何だよ、その義理立てるって……」

その時丁度信号が青に変わった。

「ねえ、亮平。信号青に変わったから」

「あ、ああ……」

再び亮平はアクセルを踏んだ。

「鈴音、お前は俺が忍に言われたから送ってると思ってるのか?」

「そうは思っていないよ。初めからお姉ちゃんに義理立てする為に送ってくれてるんでしょう?」

「鈴音! お前一体……! い、いや何でもない。悪かったな。大声出してしまって」

「亮平……?」

何故か亮平は苛立っている。私の考えは間違えているのだろうか?
でも私には亮平はお姉ちゃんの目を気にして私を気遣ってくれている……そうとしか思えなかった。おそらく今のお姉ちゃんは亮平の事よりも服部さんに特別な感情を持っているように感じる。恐らくその事に亮平も気づいているから私に気を使ってくれているんだ。そうすればお姉ちゃんが気にかけてくれると思って……。

 その時、駅が見えてきた。

「亮平、駅が見えてきたから…で降ろして?」

「え? だけど俺は……」

亮平は車を止めたけれども、戸惑った顔で私を見た。
カーナビに表示されている時計はすでに9時20分になろうとしている。

「亮平、無理しないでいいよ。千駄ヶ谷から新小岩迄車で30分くらいかかるんだよ? 往復なら1時間。亮平が家に帰れるの10時半頃になっちゃうじゃない」

「別にそんな事気にする必要はないさ。それよりもお前が駅からマンションまで歩いて帰る方が心配だ」

それを聞いた私は思わず笑ってしまった。

「プッ。何それ……アハハ……」

「な、なにがおかしいんだよ?」

「だって以前の亮平は頼んだって駅まで迎えに来てくれなかったじゃない。それを今になって心配だなんて……」

余程亮平はお姉ちゃんと復縁したいんだろうな……。以前の亮平は私にそんな気づかいするような人じゃなかったもの。
それであの時私は危うく痴漢に襲われそうになって、結局後から駆け付けた亮平によって助けてもらったけど。

「あ、あの時と今は違うっ!」

「同じだよ」

「!」

「私はあの時から別に何も変わっていないもの。それに今私が住んでる辺りは結構人通りは多いからそれほど危険じゃないもの」

「鈴音……あの時は本当に悪いことしたと思ってる……。ごめん……」

亮平はうなだれて謝ってきた。

「いいよ、もう済んだことだし。それじゃ私行くね」

車の扉を開けて降りようとした直前、亮平が声をかけてきた。

「鈴音っ!」

「何?」

「お前……今日あの家で眠っていた時……途中目が覚めたりはしなかったのか……?」

「え……?」

亮平はいきなりわけの分からないことを尋ねてきた。

「う、うん……そうだよ?」

「そうか……分かった。……気を付けて帰れよ?」

何故か落胆しているようにみえる。

「え? うん。大丈夫。それじゃあね」

私は車を降りると亮平に手を振り、改札へ向かった――




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