本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
第15章 5 戻ってきた日常
あれから数日が経過した。
お姉ちゃんには出かけたい場所が決まったらメールするとその日のうちに連絡をし、 私はいつもと変わらない毎日を過ごすようになっていた。定期的なカフェインの摂取と病院からもらった薬、それに規則正しい生活が功をなしたのか、あれ以来急激な眠気に襲われることは無くなっていた。
そして今夜も……。
「お疲れ様、加藤さん」
改札を出ると、そこにはTシャツにジーンズ姿で笑顔の川口さんが立っていた。
「こんばんは。今夜も迎えに来てくれてありがとう」
お礼を言うと、ますます川口さんは笑顔になった。
「いいんだよ。俺がやりたくてやってるんだから。それじゃ帰ろうか?」
「うん、そうだね」
そして2人で並んで帰る。そんな日課が出来上がっていた。最も川口さんが毎回迎えに来てくれるわけではない。基本、川口さんの帰りが早い時だけ私を迎えに来ることになっているけれども、やはりそれでも心苦しい事に変わりはない。彼は引っ越し会社に勤務しているから重労働者だ。身体だって疲れているだろうから帰宅したらゆっくり休んでいたいだろうに、自分が迎えに来れる日は必ず来てくれる。それが申し訳なくてたまらない。
「やっぱり自転車買おうかな……」
歩きながらぽつりと言うと、川口さんが尋ねてきた。
「え? 自転車買うの?」
「うん。いくら駅から徒歩圏内って言われても結局は歩くと10分くらいかかっちゃうし、それに……」
背の高い川口さんの顔を見上げた。
「?」
彼は不思議そうな顔で私を見る。
「私が自転車を買えば迎えに来なくてすむでしょう? ほら、歩きより自転車の方が安全なわけだし」
「それだけ?」
「え?」
「まさか……それだけの理由で自転車買おうとしてるの?」
「そ、そういうわけじゃないけど」
慌てて首を振る。
「ほら、買い物だって自転車がある方が便利なわけじゃない? 沢山買ってもカゴに入れれば何も問題ないわけだし、自転車ならあっという間に駅前のスーパーにだってよれるじゃない?」
「それもそうだけど……」
「だって、やっぱり川口さんに負担はかけられないから。私が迎えはもういいよって言っても今夜だってこうして迎えに来てくれたわけでしょう?」
私は毎回迎えを断っているのに、川口さんはこうやって迎えに来てくれている。
「迷惑……なのかな?」
悲し気な顔で川口さんが私を見る。
「迷惑ってわけじゃなくて、申し訳なくて……」
「そんな風に思わなくていいのに。俺がそうしたいからやっているだけなんだから」
まただ、結局この話になると終わりが見えなくなってしまう。
「わ、分かったよ。それじゃ今まで通り迎えをお願いするけど……やめたくなったらいつでも言ってね? それと自転車は買うから」
「やめたくなることは無いけど、自転車を買う事は良いと思うな」
ようやく川口さんは笑顔になると尋ねてきた。
「それで今度の週末、お姉さんと幼馴染がデートに行くんだよね? 場所や時間は決まったの?」
「うん。高尾山口にある『トリックアート』の美術館にしようかと思っているの。あそこは観光地だし、ちょっとした旅行気分を味わえるでしょう? 亮平は車で行くって言ってたよ」
亮平は私が行かないことに対して、かなり渋っていたけれども最終的には納得してくれた。そしてそのことはまだお姉ちゃんには内緒にしてある。前日の夜に突然シフトが変わって仕事になってしまったから2人で行ってきてと言うつもりだ。
「加藤さんは高尾山には行ったことあるの?」
川口さんが尋ねてきた。
「ううん、まだ無いよ」
「そうか……なら、今度俺と……」
「え?」
「あ……ごめん。何でもない」
私は隣を歩く川口さんの顔を見た。
その顔はどこか寂しげだった――
お姉ちゃんには出かけたい場所が決まったらメールするとその日のうちに連絡をし、 私はいつもと変わらない毎日を過ごすようになっていた。定期的なカフェインの摂取と病院からもらった薬、それに規則正しい生活が功をなしたのか、あれ以来急激な眠気に襲われることは無くなっていた。
そして今夜も……。
「お疲れ様、加藤さん」
改札を出ると、そこにはTシャツにジーンズ姿で笑顔の川口さんが立っていた。
「こんばんは。今夜も迎えに来てくれてありがとう」
お礼を言うと、ますます川口さんは笑顔になった。
「いいんだよ。俺がやりたくてやってるんだから。それじゃ帰ろうか?」
「うん、そうだね」
そして2人で並んで帰る。そんな日課が出来上がっていた。最も川口さんが毎回迎えに来てくれるわけではない。基本、川口さんの帰りが早い時だけ私を迎えに来ることになっているけれども、やはりそれでも心苦しい事に変わりはない。彼は引っ越し会社に勤務しているから重労働者だ。身体だって疲れているだろうから帰宅したらゆっくり休んでいたいだろうに、自分が迎えに来れる日は必ず来てくれる。それが申し訳なくてたまらない。
「やっぱり自転車買おうかな……」
歩きながらぽつりと言うと、川口さんが尋ねてきた。
「え? 自転車買うの?」
「うん。いくら駅から徒歩圏内って言われても結局は歩くと10分くらいかかっちゃうし、それに……」
背の高い川口さんの顔を見上げた。
「?」
彼は不思議そうな顔で私を見る。
「私が自転車を買えば迎えに来なくてすむでしょう? ほら、歩きより自転車の方が安全なわけだし」
「それだけ?」
「え?」
「まさか……それだけの理由で自転車買おうとしてるの?」
「そ、そういうわけじゃないけど」
慌てて首を振る。
「ほら、買い物だって自転車がある方が便利なわけじゃない? 沢山買ってもカゴに入れれば何も問題ないわけだし、自転車ならあっという間に駅前のスーパーにだってよれるじゃない?」
「それもそうだけど……」
「だって、やっぱり川口さんに負担はかけられないから。私が迎えはもういいよって言っても今夜だってこうして迎えに来てくれたわけでしょう?」
私は毎回迎えを断っているのに、川口さんはこうやって迎えに来てくれている。
「迷惑……なのかな?」
悲し気な顔で川口さんが私を見る。
「迷惑ってわけじゃなくて、申し訳なくて……」
「そんな風に思わなくていいのに。俺がそうしたいからやっているだけなんだから」
まただ、結局この話になると終わりが見えなくなってしまう。
「わ、分かったよ。それじゃ今まで通り迎えをお願いするけど……やめたくなったらいつでも言ってね? それと自転車は買うから」
「やめたくなることは無いけど、自転車を買う事は良いと思うな」
ようやく川口さんは笑顔になると尋ねてきた。
「それで今度の週末、お姉さんと幼馴染がデートに行くんだよね? 場所や時間は決まったの?」
「うん。高尾山口にある『トリックアート』の美術館にしようかと思っているの。あそこは観光地だし、ちょっとした旅行気分を味わえるでしょう? 亮平は車で行くって言ってたよ」
亮平は私が行かないことに対して、かなり渋っていたけれども最終的には納得してくれた。そしてそのことはまだお姉ちゃんには内緒にしてある。前日の夜に突然シフトが変わって仕事になってしまったから2人で行ってきてと言うつもりだ。
「加藤さんは高尾山には行ったことあるの?」
川口さんが尋ねてきた。
「ううん、まだ無いよ」
「そうか……なら、今度俺と……」
「え?」
「あ……ごめん。何でもない」
私は隣を歩く川口さんの顔を見た。
その顔はどこか寂しげだった――