本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
「ひょっとして貴女は直人さんと連絡を時々取り合ったりしていましたか?」

「連絡をとりあっていたって言う内容はあまり正しくは無いわ。私が一方的にメールや電話を入れていたのよ。だけど直人は一切応答してくれなかったわ。いっそ連絡先を変えるなり、着信拒否をしてくれれば諦めもついたのに……。でもそんな風に思っていた矢先よ。2日前に突然連絡が取れなくなったのは」

「え……?」

それって、つまり2日前迄だったら直人さんに連絡が取れていたって言う事? 臆病な私は連絡が来なかっただけで再度自分から直人さんにメールも電話もする事が出来ずにいたのに、目の前のすみれさんは……。
少しだけ彼女の積極的な性格が羨ましくなってしまった。

「そして今夜たまたま来てみたら……マンションに明かりがついていて、思わず上がって来ちゃったのよ。だけど自分でこんな事して何だけど、私のやっている事って完全にストーカーよね」

すみれさんは自嘲的に笑った。

「は、はあ……」

何と返事をすれば良いのか分からず、私は曖昧に返事をした。

「ねえ、貴女もこのマンションに来ているって事は、やっぱり直人の新しい連絡先も、何所へ行ったのかも知らないって事よね?」

「は、はい」

私は去り気なくポケットに忍ばせている封筒を上から抑えるように返事をする。

「そう……」

すみれさんは寂しそうに笑う。

「やっぱり貴女は直人にとっては特別な存在だったのね……だって直人は貴女に合鍵を渡していたって事よね? 私にはそんなものくれなかったもの」

「え?」

直人さんは交際してきた女性全員に合鍵を渡しているのかとばかり思っていた。

「何よ、その意外そうな顔は……どうせ私はそれだけの存在よ。そもそも直人が冷たかったから私は浮気してしまったのだし」

「冷たい? 直人さんが?」

その話こそ信じがたかった。だって直人さんはすごく私に優しかった。すみれさんの語る直人さんは私の印象とはまるで違って聞こえてしまった。

「もう、潮時なのね……」

すみれさんは呟くと、玄関へと向かっていく。

「あ、あの! ひょっとして帰るんですか!?」

思わず声をかけてしまった。

「当然でしょう? ここにはもう直人がいない。それに貴女は直人の元カノ。2人で仲良く話が出来ると思っているの?」

「そ、それは……」

言われてみればすみれさんの言う通りかもしれない。それにしても何故私はすみれさんを引き留めてしまったのだろう?

「全く……」

すみれさんは溜息をつくと、再び玄関へ向かうと靴を履き始めた。そして私に背中を向けながら話してくれた。

「最近川口電気で何か起こったみたいよ? HPで調べて自分の目で確認したほうがいいかもしれないわよ?」

「!」

それは……今すみれさんが出来る私に対しての最大限の親切心に思えた。

「ありがとうございます」

お礼を述べると、すみれさんが振り返った。

「じゃあね。もし直人に会える機会があったら言って。もう私は二度と貴方の前には現れないって。今までごめんなさいって伝えておいてくれる?」

それだけ言うと、すみれさんは出ていってしまった。

――バタン

再び部屋に1人になると、最後にもう一度だけ部屋を見て回った。けれどもう直人さんの手掛かりになるようなものは何一つ見つける事は出来なかった。

「帰ろう……。帰ってHPを確認してみよう」

部屋の明かりを消すと直人さんの部屋を出て鍵をかけ、重い足取りでマンションを後にした――

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