本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
第16章 25 再び来店
午後、本店から送られてきたパンフレットを店の奥で整理していると不意に青い顔をした女性先輩が私の元へやってきた。
「ねえ、加藤さん。大変よ、すぐに来てくれる?」
「え? は、はい。何かあったのですか?」
「ええ、太田さんが来店したお客と少しもめていて……」
「え?」
何の事かさっぱり分らなかったけど、あの太田先輩がお客様と揉め事を起こすなんて……しかも私が絡んでるの?
訳が分からなかったけども、私は先輩の後に続いて店の中へ戻ると息を飲んでしまった。
「あ……! あの人は……!」
太田先輩とカウンター越しに椅子に座っているお客を見て青ざめていくのが自分でも分った。
「え? やっぱり加藤さんの知り合いの人なの?」
先輩の問いに黙って頷く。太田先輩を睨み付けていたのは他でもない、常盤恵利さんだった。きっと彼女は私からホテルのチケットを取り上げる為に来店したんだ……。でも、念の為にチケットを持ち歩いていて本当に良かった。すぐに自分のデスクへ行くとチケットを引き出しから出して、ジャケットのポケットに忍ばせると大田先輩の元へと向かった。すると恵利さんがすぐに私に気付いて声をかけてきた。
「あ、加藤さん! 昨夜勝手に帰ってしまうなんてちょっと酷いんじゃないの?」
あろうことか、恵利さんは代理店の中で昨夜の私が取った行動を責め立ててきた。
「加藤さん……!」
椅子に座っていた太田先輩は驚いたように私を見上げた。
「はい、申し訳ございませんでした。あ、あの……ここはお店ですので、出来ればその話は今は……」
頭を下げてお願いする。
「そうね、それは今後の貴女の行動次第ね?」
その時、太田先輩が口を挟んできた。
「お客様、大変申し訳ございませんがここは旅行代理店です。旅行のご相談でない方はどうぞお帰り頂けますか?」
「太田先輩……!」
私は驚いて先輩を見たけれども、先輩は恵利さんから目を離さない。すると恵利さんは口元に笑みを浮かべた。
「あら? 私は客よ。昨日だって旅行の相談で窓口に来てるのよ」
「「あ!」」
私と太田先輩が同時に声を上げた。まさかサングラスにマスク姿の女性が恵利さんだったなんて……。
「だから今日は私と直人の新婚旅行のプランを貴女に立てて貰いたくて来たのよ。加藤さん、貴女にプランを立てて貰うわ。それにホテルのチケットを渡しなさい。もう貴女には不要なものなのだから」
「加藤さん……」
太田先輩が心配そうに私を見ている。
「わ、分かりました……」
ここは職場、泣きたい気持ちでいっぱいだけど絶対に泣くわけにはいかない。震える手でジャケットからチケットの入った封筒を取り出すと、そっとカウンターの上に置いた。
「どうぞ……」
それを見た恵利さんが意外そうな顔を見せた。
「あら、貴女チケット持っていたのね」
「はい昨夜言われていたので念の為に持ってきたんです」
「ふ〜ん。中々貴女気が利くじゃない」
「お客様、いい加減にして下さい。ここは旅行会社です。社員を困らせないで下さい」
その物言いは丁寧だったが、大田先輩の声には怒気が含まれていた。
「何よ、貴方まだここにいたの? 私は加藤さんに旅行相談にきたのよ。新婚旅行のね?」
恵利さんは<新婚旅行>という言葉を強調する。その言葉に胸が大きく抉られる。
「それなら彼女では無く、この私が代わりにご相談を承りますが? 彼女、具合がわるそうなので」
「あら、具合が悪いなら早退するべきじゃないかしら?」
恵利さんの言葉にギョッとなってしまった。
「い、いえ。大丈夫です。私がご相談を承ります……先輩、代わって下さい」
「あ、ああ……」
先輩が立ち上がって、私と席を交換してくれた。
「それでは失礼致します……」
私は恵利さんの向かい側に座り、ぎゅっとカウンターの下で手を握りしめた――
「ねえ、加藤さん。大変よ、すぐに来てくれる?」
「え? は、はい。何かあったのですか?」
「ええ、太田さんが来店したお客と少しもめていて……」
「え?」
何の事かさっぱり分らなかったけど、あの太田先輩がお客様と揉め事を起こすなんて……しかも私が絡んでるの?
訳が分からなかったけども、私は先輩の後に続いて店の中へ戻ると息を飲んでしまった。
「あ……! あの人は……!」
太田先輩とカウンター越しに椅子に座っているお客を見て青ざめていくのが自分でも分った。
「え? やっぱり加藤さんの知り合いの人なの?」
先輩の問いに黙って頷く。太田先輩を睨み付けていたのは他でもない、常盤恵利さんだった。きっと彼女は私からホテルのチケットを取り上げる為に来店したんだ……。でも、念の為にチケットを持ち歩いていて本当に良かった。すぐに自分のデスクへ行くとチケットを引き出しから出して、ジャケットのポケットに忍ばせると大田先輩の元へと向かった。すると恵利さんがすぐに私に気付いて声をかけてきた。
「あ、加藤さん! 昨夜勝手に帰ってしまうなんてちょっと酷いんじゃないの?」
あろうことか、恵利さんは代理店の中で昨夜の私が取った行動を責め立ててきた。
「加藤さん……!」
椅子に座っていた太田先輩は驚いたように私を見上げた。
「はい、申し訳ございませんでした。あ、あの……ここはお店ですので、出来ればその話は今は……」
頭を下げてお願いする。
「そうね、それは今後の貴女の行動次第ね?」
その時、太田先輩が口を挟んできた。
「お客様、大変申し訳ございませんがここは旅行代理店です。旅行のご相談でない方はどうぞお帰り頂けますか?」
「太田先輩……!」
私は驚いて先輩を見たけれども、先輩は恵利さんから目を離さない。すると恵利さんは口元に笑みを浮かべた。
「あら? 私は客よ。昨日だって旅行の相談で窓口に来てるのよ」
「「あ!」」
私と太田先輩が同時に声を上げた。まさかサングラスにマスク姿の女性が恵利さんだったなんて……。
「だから今日は私と直人の新婚旅行のプランを貴女に立てて貰いたくて来たのよ。加藤さん、貴女にプランを立てて貰うわ。それにホテルのチケットを渡しなさい。もう貴女には不要なものなのだから」
「加藤さん……」
太田先輩が心配そうに私を見ている。
「わ、分かりました……」
ここは職場、泣きたい気持ちでいっぱいだけど絶対に泣くわけにはいかない。震える手でジャケットからチケットの入った封筒を取り出すと、そっとカウンターの上に置いた。
「どうぞ……」
それを見た恵利さんが意外そうな顔を見せた。
「あら、貴女チケット持っていたのね」
「はい昨夜言われていたので念の為に持ってきたんです」
「ふ〜ん。中々貴女気が利くじゃない」
「お客様、いい加減にして下さい。ここは旅行会社です。社員を困らせないで下さい」
その物言いは丁寧だったが、大田先輩の声には怒気が含まれていた。
「何よ、貴方まだここにいたの? 私は加藤さんに旅行相談にきたのよ。新婚旅行のね?」
恵利さんは<新婚旅行>という言葉を強調する。その言葉に胸が大きく抉られる。
「それなら彼女では無く、この私が代わりにご相談を承りますが? 彼女、具合がわるそうなので」
「あら、具合が悪いなら早退するべきじゃないかしら?」
恵利さんの言葉にギョッとなってしまった。
「い、いえ。大丈夫です。私がご相談を承ります……先輩、代わって下さい」
「あ、ああ……」
先輩が立ち上がって、私と席を交換してくれた。
「それでは失礼致します……」
私は恵利さんの向かい側に座り、ぎゅっとカウンターの下で手を握りしめた――