本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

第17章 13 クリスマスとホワイトカレー

9時50分――

遅番だった私は始業開始10分前に職場に到着した。代理店の脇に自転車を止めていると、丁度同じ遅番だった太田先輩に遭遇してしまった。先輩は私が自転車で来ている様子に驚いて目を丸くする。

「あれ? 加藤さん。どうして自転車で来てるんだい? ひょっとすると錦糸町駅に自転車置き場でも借りたのかい? でも駅から歩いて5分もかからない場所なのに自転車なんて……」

引っ越しした翌日にすぐばれてしまうとは思わなかった。でも遅かれ早かれ会社には交通費の事で報告しなければいけなかったし……。

「あの、実は私引っ越したんです。錦糸町のマンションに」

「ええっ!? そうなのか!? いつ?」

「昨日……です」

俯き加減に答える。

「え? でも昨日って確かデートだって……」

「……」

返答に困り、俯いていると突然ポンと頭に手が触れてきた。

「?」

見上げると太田先輩が私の頭に右手を乗せている。そしてにっこり笑うと
頭を撫でてきた。

「そっか。良い物件が見つかったのか。職場が近くなって良かったな」

「先輩……」

「よし、それじゃ可愛い後輩の為に先輩の俺が引っ越し祝いにランチをおごってやるか。13時にここで待ってるからな」

それだけ言うと、さっそうと社員通用口から代理店の中へ太田先輩は消えて行った。結局、今回も太田先輩は何も聞かないでくれた。

「……有難うございます……先輩……」

先輩の優しく大きな手が嬉しくて……私は撫でられた頭に手をやり、ほんの少しだけ涙した――

****

 午前中、私は恵利さんからのメールを忘れる為に仕事に没頭した。幸いにも学生達の来店客が多く、あっという間に午前中の仕事が終了した。

13時になり、お昼休憩に入った私は代理店の外へ出ると既にそこにはコートを着た太田先輩が白い息を吐きながら立っていた。

「すみません、お待たせしました」

「うん。2分47秒の遅刻だな」

「え!? そんな細かい!」

すると先輩は笑った。

「ハハハ。冗談さ。さて、それじゃ飯食いに行くか」

太田先輩はクルリと背を向けると歩き出した。



 今日はクリスマス。町の中はクリスマスムード一色で、あちこちでクリスマスソングが流れている。

「う~ん。引っ越し祝いにソバかうどんでもと思ったけど、考えてみれば今日はクリスマスなんだよな。そんな日に和食なんて変かもな」

太田先輩が歩きながら首をひねる。

「私は何所でも構いませんけど?」

「いやいや、1年にわずか2回しかない特別な日だからな~…よし! カレー屋に行こう! いいよな?」

太田先輩が真剣な顔で頷く。クリスマスに何故カレー? そう思ったけど、別に私はどんなものでも構わなかったので笑顔で返事をした。

「いいですね。カレー屋さん、ぜひ行きましょう」

「よし、ならこっちだ」

「はい」

そして私達はカレー屋さんへ向かった――


**** 

 何故、太田先輩がカレー屋さんへ連れて来てくれたのか、理由が判明した。

「これ……本当にカレーなんですか?」

私と先輩のテーブルの前にはお皿に盛りつけた真っ白なカレーが置かれている。具材の野菜、ブロッコリーとニンジンがクリスマスのイメージを醸し出している。
でも……。

「どう見ても、見た目はシチューにしか見えないんですけど?」

しかし、不思議な事に香りはスパイシーだ。


「まあまあ。とにかく食べてみろよ」

太田先輩は嬉しそうに言うとスプーンを手に取った。

「頂きます」

そこで私も手を合わせた。

「頂きます」

そして早速スプーンでホワイトカレーをすくって口に入れみる。

「……!」

すごい、驚きだ。

「先輩! すごいです! 見た目はシチューなのに、味はカレーですよ! すっごく美味しいです!」

「ああ。美味いだろう?」

太田先輩はカレーを口に運びながら尋ねてきた。

「はい。最高です」

思わず笑顔で答えると、先輩がフッと笑みを浮かべる。

「良かった。少しは元気出たか?」

「え……?」

先輩、ひょっとて落ち込んでる私を元気づける為に……?

「ほら、冷めてしまうからさっさと食べようぜ」

「は、はい」

そして私と太田先輩は雑談を交わしながらホワイトカレーを食べた。

ちょっぴりピリ辛でスパイシーなホワイトカレーの味は……ほんの少しだけ、私の胸を熱くした――


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