本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
第19章 20 残されていたもの
翌日も私は遅番だった。そして出社してみると普段は後方で仕事をしている女性の先輩がカウンターで接客業をしていた。
「あれ……? 太田先輩どうしたんだろう? 風邪かな? それとも今日はシフトでお休みだったかな?」
独り言のように呟きながらPCの電源を入れて、井上君に尋ねて見ようかと思ったけれども彼は電話で接客中だった。でも正直私は太田先輩がいなかったことにホッとしていた。昨夜あんな別れ方をしたから今日会うのは正直気まずかったから。
ピッ
気付けば井上君が電話を切っていたので声をかけた。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
「ねぇ太田先輩、今日ってお休みの日だっけ?」
「いや……実は俺も今朝、聞いたんだけど太田先輩は今日から本社でバリ島支店へ行く前の研修に入ったらしいんだよ。もうこの代理店に戻って来る事は無いらしい」
「え!?」
思わず大きな声を出してしまい、慌てて口を押えた。いけない、今は仕事中だった。
「で、でも……そんな突然に……」
「うん、俺も驚いているよ……ってどうしたの? 加藤さん」
「え? な、何?」
「顔色が真っ青だから……」
その時、不意に係長から声をかけられた。
「加藤さん、ちょっといいかい」
「はい、伺います」
呼ばれた私はすぐに係長の元へ向かった。
「実は太田が突然本社の方に行ってしまったから、彼の机がまだ私物が残されているらしんだ。抱えていた仕事は全て片付けてあるらしいのだけどね」
「そうなんですか?」
「ああ、それで太田からの伝言なんだけど……加藤さん。手が空いた時に太田の机を片付けて貰えないかな? 君にやってもらいたいそうなんだ」
「あ、はい。分かりました」
何故私に? そう思ったけど、太田先輩には色々とお世話になったし、申し訳ない気持ちもあった。何より業務命令なのだから。
「今急ぎの仕事が無いのですぐに取り掛かりますね」
そして私はすぐに太田先輩のデスク回りを整理することにした。でも片付けた私物はどうすればいいのだろう? やっぱり住所に送るべきなのだろうか? 係長の方を振り返れば、何やら電話中だった。とりあえず段ボール箱に片付けてから後で尋ねてみることにしよう。
店舗の奥の倉庫から早速空き段ボール箱を持ってくると太田先輩のデスクの足元に置いて、デスクの天板のすぐ下にある一番大きな引き出しをガラリと開けた。
「え……?」
中身は空っぽになっている。おかしいな……? 続いて右側の3段ある引き出しの一番上を開けてみた。
「……」
やはり中は空っぽだった。2番目の引き出しも空っぽ。そして3番めの引き出しを開けると、中にはファスナーケースだけが残されていた。それを見た時、何故か心臓がドクンと大きく鳴った。震える手でファスナーケースを取り出すと、中には想像していた通りUSBが入っていた。USBには付箋が貼られ、『加藤さんへ』と書かれていた――
「係長」
電話を終えた係長の元へ行き、声をかけた。
「ああ、どうだった? 加藤さん」
「はい、太田先輩の机の中は空になっていました。机回りの文具は全て代理店の備品だったのでこの箱の中に入っています」
私は小さな箱の蓋を開けて中身を見せた。
「ああ、確かにそのようだね。いや、悪かったね。加藤さんに頼んでしまって」
「いいえ、仕事ですので」
「ご苦労様、持ち場に戻っていいよ」
「はい」
頭を下げてデスクに戻ると、私はUSBの入った制服のポケットを上からそっと押さえた。
****
その日の夜、会社から帰宅すると着替えもそこそこにパソコンUSBを差し込むむと、太田先輩の飼っている猫の愛らしい動画が音楽と共に再生され始めた。
「え……? 猫の動画……?」
始めは突然再生された猫の動画に驚いたけど、面白くてつい夢中で眺めていると、不意に太田先輩が画面に現れて、話しかけてきた。
「加藤さん。この先、辛い事や悲しいことがあったら……この動画を見て元気を取り戻してくれたら嬉しいな」
太田先輩は笑顔で話しかけている。だけど、その動画はまるで直人さんの別れの動画を彷彿とさせるものだった。
「本当は一緒にバリ島へ来てもらいたかったけど、ふられることはもう分かっていたからそれほどショックは受けていないよ。だから加藤さんは何も気に病むことはないからね。それじゃ、元気で」
そして動画は終わった。
「ごめんなさい‥…太田先輩……」
私は再生が終わったPCの前に座り、謝罪の言葉を述べた――
「あれ……? 太田先輩どうしたんだろう? 風邪かな? それとも今日はシフトでお休みだったかな?」
独り言のように呟きながらPCの電源を入れて、井上君に尋ねて見ようかと思ったけれども彼は電話で接客中だった。でも正直私は太田先輩がいなかったことにホッとしていた。昨夜あんな別れ方をしたから今日会うのは正直気まずかったから。
ピッ
気付けば井上君が電話を切っていたので声をかけた。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
「ねぇ太田先輩、今日ってお休みの日だっけ?」
「いや……実は俺も今朝、聞いたんだけど太田先輩は今日から本社でバリ島支店へ行く前の研修に入ったらしいんだよ。もうこの代理店に戻って来る事は無いらしい」
「え!?」
思わず大きな声を出してしまい、慌てて口を押えた。いけない、今は仕事中だった。
「で、でも……そんな突然に……」
「うん、俺も驚いているよ……ってどうしたの? 加藤さん」
「え? な、何?」
「顔色が真っ青だから……」
その時、不意に係長から声をかけられた。
「加藤さん、ちょっといいかい」
「はい、伺います」
呼ばれた私はすぐに係長の元へ向かった。
「実は太田が突然本社の方に行ってしまったから、彼の机がまだ私物が残されているらしんだ。抱えていた仕事は全て片付けてあるらしいのだけどね」
「そうなんですか?」
「ああ、それで太田からの伝言なんだけど……加藤さん。手が空いた時に太田の机を片付けて貰えないかな? 君にやってもらいたいそうなんだ」
「あ、はい。分かりました」
何故私に? そう思ったけど、太田先輩には色々とお世話になったし、申し訳ない気持ちもあった。何より業務命令なのだから。
「今急ぎの仕事が無いのですぐに取り掛かりますね」
そして私はすぐに太田先輩のデスク回りを整理することにした。でも片付けた私物はどうすればいいのだろう? やっぱり住所に送るべきなのだろうか? 係長の方を振り返れば、何やら電話中だった。とりあえず段ボール箱に片付けてから後で尋ねてみることにしよう。
店舗の奥の倉庫から早速空き段ボール箱を持ってくると太田先輩のデスクの足元に置いて、デスクの天板のすぐ下にある一番大きな引き出しをガラリと開けた。
「え……?」
中身は空っぽになっている。おかしいな……? 続いて右側の3段ある引き出しの一番上を開けてみた。
「……」
やはり中は空っぽだった。2番目の引き出しも空っぽ。そして3番めの引き出しを開けると、中にはファスナーケースだけが残されていた。それを見た時、何故か心臓がドクンと大きく鳴った。震える手でファスナーケースを取り出すと、中には想像していた通りUSBが入っていた。USBには付箋が貼られ、『加藤さんへ』と書かれていた――
「係長」
電話を終えた係長の元へ行き、声をかけた。
「ああ、どうだった? 加藤さん」
「はい、太田先輩の机の中は空になっていました。机回りの文具は全て代理店の備品だったのでこの箱の中に入っています」
私は小さな箱の蓋を開けて中身を見せた。
「ああ、確かにそのようだね。いや、悪かったね。加藤さんに頼んでしまって」
「いいえ、仕事ですので」
「ご苦労様、持ち場に戻っていいよ」
「はい」
頭を下げてデスクに戻ると、私はUSBの入った制服のポケットを上からそっと押さえた。
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その日の夜、会社から帰宅すると着替えもそこそこにパソコンUSBを差し込むむと、太田先輩の飼っている猫の愛らしい動画が音楽と共に再生され始めた。
「え……? 猫の動画……?」
始めは突然再生された猫の動画に驚いたけど、面白くてつい夢中で眺めていると、不意に太田先輩が画面に現れて、話しかけてきた。
「加藤さん。この先、辛い事や悲しいことがあったら……この動画を見て元気を取り戻してくれたら嬉しいな」
太田先輩は笑顔で話しかけている。だけど、その動画はまるで直人さんの別れの動画を彷彿とさせるものだった。
「本当は一緒にバリ島へ来てもらいたかったけど、ふられることはもう分かっていたからそれほどショックは受けていないよ。だから加藤さんは何も気に病むことはないからね。それじゃ、元気で」
そして動画は終わった。
「ごめんなさい‥…太田先輩……」
私は再生が終わったPCの前に座り、謝罪の言葉を述べた――