本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

第3章 15 優しい彼とイラつく彼

 い、今のセリフは聞かなかったことにしよう…。うん、それがいいかも。

「と、とりあえず…乾杯しませんか?」

グラスを持ち上げて笑みを浮かべると、なぜか隆司さんは頬を染めて視線をそらせると言った。

「参ったな…」

「え?何がですか?」

「いや…鈴音が2年前よりも魅力的な女性になっていたからさ」

「え…?」

隆司さんの言った言葉を頭の中で繰り返し…途端に私は顔が赤くなる。いくら今は相手の事を何とも思ってないとはいえ、過去に少しだけでもお付き合いしたことのある男性に言われると、どうしようもなく意識してしまう。
よ、よし、こういう時は…飲むに限るっ!

「はい、かんぱーい」

私は持ったグラスを隆司さんのグラスに軽く打ちつけると、一気にぐいっとカクテルを煽るように、まるでジュースのようにゴクッゴクッと飲み干した。

「お、おい…大丈夫か?アルコールなのに、そんなに一気に煽るように飲んだりして…」

隆司さんがオロオロした様子で話しかけてくる。

「ええ、これくらい平気です。もう1杯頼んでもいいですか?」

「ああ、勿論構わないよ?」

「それでお言葉に甘えて…」


30分後―

私の前には空になったカクテルグラスがいくつも並べられていた。

「す、鈴音…大丈夫なのか?こんなに飲んで。まだ食事もほとんど食べていないのに・・。」

隆司さんはオロオロしながら私を見ている。

「はい、大丈夫です。これくらい…社会人になって以前よりも大分飲めるようになったんですよ?」

半分頭がふわふわしている。でもこれくらいの酔いがあった方が隆司さんと接することが出来そうだ。

「もうこの辺りにしておいて食事にしたほうがいい」

隆司さんは言いながら私の前に先程注文したトマトの冷製パスタを綺麗に皿に取り分けてくれた。

「…どうもありがとうございます」

ぺこりと頭を下げて、私はありがたく頂戴した。

「…おいしいです」

トマトの酸味と塩気のある冷たいパスタは先程迄酔いで赤らんでいた頬の熱を冷ましていく。

「ほら、これも食べるといい」

隆司さんは言いながら、他にも私の皿に様々な料理を取り分けてくれた。

「すみません…何だかお世話してもらっているみたいで申し訳ありません…」

アクアリウムを眺めながら私はポツリと言った。でも…何故だろう?別れて2年が経過して、今日偶然再会したばかりでこんなに私に色々世話を焼いてくれるのだろう…?

「あの…隆司さん…」

アルコールでぼんやりした顔で隆司さんを見上げる。

「っ!」

途端に隆司さんは顔を真っ赤に染めて視線を反らすと口を開いた。

「鈴音…今だから言うけど、俺はずっと後悔していたんだ。学生時代に自分から交際を申し込んだのにすぐに別れを告げたこと…」

「隆司さん…?」

「鈴音の心の中には別の男がいるのに気づいて、俺は別れを告げたけど…本当は期待していたんだ。ひょっとすると別れたくないって言ってくれるんじゃないかと…。だけど、鈴音は…」

「…」

私は申し訳ない気持ちで俯いた。隆司さんに本当に悪い事をしてしまったんだ…。

「でも、ここで再会したのは何かの縁だと思っている。鈴音、もう一度俺と…」

その時、私のスマホが鳴り響いた。

「あ…で、電話出てもいいですか…?」

遠慮がちに尋ねると隆司さんは黙ってうなずく。私はスマホに手を伸ばし、着信相手を見て目を見開いた。電話の相手は亮平だったのだ。

「え…亮平…?」

私は急いで電話をタップすると同時に受話器越しから亮平のイライラした声が聞こえてきた。

『遅いっ!鈴音。お前今どこにいるんだよ?!』

「え…?何処って…実は今お店でお酒飲んでいて…」

『はあ?お前…ふざけるなよ!忍さんを1人にするなっ!』

「え?亮平…今私の家にいるんじゃないの?」

『違うっ!俺は今残業が終わったところなんだよ!駅に向かっているところだっ!俺の駅からは遠くて時間がかかるから鈴音、今すぐに家に帰れ!』

亮平はかなり私にイライラしている。でも言われてもしかたないかも。まだ情緒不安定なお姉ちゃんを家に留守番させて、私は外でお酒を飲んでいる場合じゃなかったかも…。

その時、突然隆司さんの手が伸びてきて私のスマホを取り上げると耳に押し当てた。

「おい、誰だ?お前は…俺の鈴音に何て態度取ってくれるんだ?」

隆司さんはとんでもない事を亮平に言った――
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