本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

第1章 3 私のお仕事

「おはようございます」

朝10時―

出勤してきた私は挨拶をして店の中へ入った。

「おはよう、加藤さん」

資料に目を通していた係長が顔を上げると挨拶を返してくれた。他の社員の人達は皆接客中だった。

「今朝はお客さん多いですね。連休も開けたばかりなのに」

私は小声で尋ねた。

「ああ、そうなんだよ。実は昨日、駅前で旅行の新しいプランのビラを配ったんだよ。それが効果があったのかも知れないね。と言う訳で…」

係長の顔に笑みが浮かんだ。う…この表情は…何だか嫌な予感がしてきた。すると案のじょう、係長はデスクの脇に置かれた段ボール箱を指さすと言った。

「この箱の中にビラが入っているから、袋にティッシとビラをセットして、とりあえず200部持って駅前で配って来てくれるね?」

え?!200部も…?!

「は、はい…分かりました…」

ヤレヤレ…出社早々ビラを配りに行かされるとは…。

 取りあえず、係長から段ボール箱を預かった私は自分のデスクに運ぶと早速ビニール袋にティッシュとビラをセットにして準備を進めた。勿論その間にも電話はかかって来る。電話応対をしながら、ビラ配りの準備を終えた頃には時刻はすでに11時を過ぎていた。

「係長。それでは行ってきますね」

ビラが入った紙袋を両肩に下げた私は係長の前に行き、挨拶をした。

「ええ?加藤さん…ひょっとして今から行くのか?もうそろそろお昼なのに…」

係長は壁に掛けてある時計を見ながら言った。

「いいえ、大丈夫です。問題ありませんよ。それにお昼の時間帯の方が駅前に人が集まるのでは無いですか?」

「う〜ん…確かにそうかもしれない…そうだ、駅前では井上君がビラを配っているから、彼と交代してくれるかい?」

井上君は私と同じ同期入社の新人だ。そうか・・どうりで姿が見えないと思ったら…ビラ配りに行ってるのか。

「はい、分かりました。では行ってきます」

ピシッと頭を下げて、私は社員通用口から外へ出ると駅前に向った。私が働いている代理店は急行も止まるし、他に私鉄とJRも乗りれいている駅なので、大手の企業も立ち並んでいる。そして昼時ともなると駅周辺は多くのOLやサラリーマンが行き交っている。

 駅前に着くと、私は早速井上君の姿を探した。

「さて、と…我が代理店の若きホープの井上君は何処かな…?」

キョロキョロ辺りを探していると、ワイシャツの上から会社指定のジャンパーを羽織った井上君が若いOLばかりに元気よく声を掛けてビラを配っている姿を発見した。はて…?何故彼は若いOLさんばかりにビラ配りをしているのだろうか?確かこのビラは信州・北陸の宿泊プランのビラなのに…?

「井上君!」

私は背後から大きな声で呼びかけた。すると井上君は振り向き、笑顔で挨拶して来た。

「ああ、おはよ。加藤さん」

「おはよう、井上君。どう?ビラ配りの調子は?」

「う〜ん…朝9時半から配ってるんだけど…今100部位は配れたかな?思ったより貰ってくれないもんだな」

井上君は首を傾げながら言う。

「そりゃそうでしょ。さっきビラ配りの様子を見ていたけど、若い女性にしか配って無かったじゃない。何で色々な年齢層や男性に配らないの?」

「そんなのは確立の問題だよ」

「確率?」

私は首を傾げた。

「ああ、誰だって若い男からビラを貰いたいって思うのは若い女性だろう?男が男からからビラを貰いたいとは誰も思わないって」

「だけど、ティッシュが貰えるんだよ?中には鼻をかみたいって思ってる人もいるかもしれないじゃない」

私だったら街角でティッシュ貰いたいけどね。

「ふ〜ん…そんなもんかなあ…」

首を捻る井上君に私は言った。

「ねえ、向こう側でビラをまいて来たら?そして12時に鳴ったらお昼に行けばいいよ。ここからは私がビラを配るから。それで13時になったらここに来て?お昼休み変わってくれる?」

「ああ、いいよ。それじゃ…後はよろしく!」

井上君は自分の分のビラ配りの段ボールを押し付けると、あっという間に姿が見えなくなってしまった。

「さて、ではビラ配り始めますか…」

そして私は近くを通り過ぎる人達に声を掛けながらビラ配りを始めた――
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