本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

第1章 5 私のお願いは?

 結局、この日は夕方5時までかかって井上君と2人でビラ配りを頑張って、ノルマ分の600部を無事配り終える事が出来た。

「はあ~…つっかれたなあ…」

井上君が空になった段ボール箱を畳みながら、肩をトントンと叩いた。

「ほんとだね…でもいいじゃない、井上君はさあ…。今日は早番なんだから18時になったら帰れるでしょう?私なんか今日は20時まで仕事だもんね…」

私は溜息をつきながら言った。

「そうなんだ、それは大変だなあ」

井上君は心の籠っていない「大変だなあ」を言う。

「まあ別にいいけどね…。さて、それじゃお店に戻ろうか?」

「ああ、そうだな」

そして私と井上君は2人で代理店へと戻った。


****


「お帰り、ご苦労だったね」

私と井上君が代理店へ戻ると係長が労いの言葉を掛けてきた。

「いえ、それ程でも」

井上君は嬉しそうに返事をする。

「係長、ビラを持ったお客さん…お店にいらっしゃいましたか?」

私が尋ねると係長は目を細めながら言った。

「ああ、君たちの頑張りのお陰で、今日10組予約が入ったよ」

「えっ?!そうなんですかっ?!それで、その人達の売上って…俺達のノルマに入るんですか?!」

すると、背後から3年生先輩の太田先輩が声を掛けてきた。

「そんなはずないだろう?接客をして予約を受けた俺達の成績になるに決まってるだろうが」

「そうなんですね…」

私はがっかり肩を落とした。

「まあまあ、明日は君たちはビラ配りに行かなくていいから。明日はデスク業務に入ってくれればいいよ。君達2人の代わりに太田にビラを配らせに行くから」

「えっ?!か、係長…本当ですか…?その話…」

太田先輩が露骨に嫌そうな顔をした。

「ああ、太田。君は新人じゃないから一人でビラを配りに行くんだぞ?」

係長は太田先輩を正面から見据えると言った。

「はい…了解しました…」

そしてすごすごと太田先輩は自分の持ち場へと戻って行った。

その後私は電話応対や、新しい旅行プランのパンフレットの入れ替え業務等を行い、井上君は18時になると退社して行った。


 18時を過ぎると代理店に残る人数は半分に減ってしまう。それに今日は金曜日だから仕事帰りのサラリーマンやOLさん達がお店にやって来るので、閉店時間までは大忙しだった。

やがて20時になり、最後のお客さんも帰ったので私はシャッターを閉めに裏口から外に出た。

ガラガラガラッ!

シャッターを閉めて店へ戻ると、先輩たちが後片付けをしていた。すると入社4年目の川辺さんが私に声を掛けてきた。

「加藤さん、倉庫の戸締りしてきてくれる?」

「はい、分かりました」

すぐに倉庫へ行った私は戸締りをし、電気を消した後店舗に戻ると、PCの電源はすでに落とされていた。

「よし、それじゃ皆帰ろうか」

遅番だった係長に促され、私たちは店舗を後にした。

「お疲れさまでしたー」

駅前で他の社員の人達と別れ、私はホームへ降りるとスマホを取り出し、地元の駅に着くまで、ネットで連載されている漫画を読むことに没頭した。

 電車に乗り込み、駅に着いたときには案の定、夜の9時を回っている。

「はあ…」

私は溜息をついた。最近この付近で痴漢騒ぎが起こっている。しかもその場所が私の通勤する道と同じなのだ。

「嫌だなあ…。亮平…迎えに来てくれないかなあ…」

私は駄目もとでスマホをタップして、亮平の携帯番号を表示させると、ダイヤルした。


5コール目で亮平が電話に出てくれた。

『もしもし?』

「あ、亮平。私…今駅に着いたんだけど…迎えに来てくれないかなあ?」

『ええ~…何で俺がお前を迎えに行かなくちゃならないんだよ…』

「だって、家に帰るには途中薄暗い道を通らないとならないし…最近、あの辺痴漢が出てるし…」

『大丈夫だろう?お前なら棒があれば平気だって言ってたじゃないか…。忍さんなら迎えに行ってやってもいいけどさ…。おい、もう電話切るぞ。今テレビ観てるところだから』

「あ、そうだったの?ごめんね。邪魔しちゃって」

『ああ、全くだ。それじゃ切るぞ』

ブッ!

すぐに電話は切られてしまった。

「はあ…」

私は溜息をついた。

「やっぱり駄目だったか…ほんの少しでも期待していたんだけどな…」

仕方ない、1人で家まで帰るしかないか…。

そして私は家を目指して歩き始めた――
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