本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
第6章 6 気まずい沈黙
本当はここに帰って来るべきじゃなかったのかもしれないけれど、結局今私が帰って来れる場所はここだけだった。
「はぁ…」
隆司さんの待つタワーマンションを見上げてため息をついてしまった。隆司さん、電話口で何だか、怒っているように感じてしまった。麻由里さんも怒らせてしまったし、隆司さんまで怒らせてしまったかもしれない。
「やっぱり早急にここを出なくちゃ…」
でも、前回の様にろくな準備もしないまま、逃げるようにあの家から飛び出してマンスリーマンションに越してしまった時よりはお金に余裕があるから今度は普通の賃貸アパートを借りれそうだし…。
「隆司さんに会ったら年明けには引っ越す話をしよう…」
そして重い足取りで私は隆司さんの待つ701号室へ向かった。
ガチャリ
ドアを開けて玄関を見ると、もう麻友里さんのブーツは消えていた。
「帰ったんだ…」
てっきりまだマンションにいると思っていたんだけどな。玄関から上がってもいいかどうか躊躇しているとバタバタと部屋の奥からこちらに向かって来る足音が聞こえてきた。
「鈴音っ!」
隆司さんが駆けつけてきた。
「あ…た、ただいま戻りました…」
何と言ったらよいか分からず、照れ笑いしながら言うと、隆司さんは口を開いた。
「鈴音…良かった。帰って来てくれたんだな?」
その顔は安堵に満ちている顔に見えた。
「は、はい。今の私にはここしか帰るところが無かったので…」
そうだ、今の私にはここしか帰ってくる場所が無い…。でも本当は私はここにいてはいけない存在なんだ。だって、この部屋は本来は隆司さんと麻友里さんの部屋なのだから。
「外は寒かっただろう?どうした?何でまだ靴を履いたままなんだ?早く上がって来いよ」
「え、ええ。でも私がこの部屋にあがってもいいものかと思って…」
「…何で、そんな風に考えるんだ?」
隆司さんの声に怒気が含まれている事に気付き、顔を上げた。
「え?」
「ここは俺と鈴音の部屋だ。違うか?」
隆司さんは熱のこもった眼で私を見つめている。
「で、でも…。この部屋は隆司さんと麻友里さんの部屋だって…」
「麻友里が言ったのか?鈴音にそんな事を?」
「あ…」
「いいから、鈴音。早く中へ入れ」
「分りました…」
隆司さんが何だかイラついている様子だったので、私は素直にしたがって玄関から中へ入った。私が部屋の中へ入ると隆司さんが尋ねてきた。
「鈴音。寒かっただろう?コーヒーでも淹れるよ」
「あ、だったら私が…」
言いかけると、隆司さんが私の右手を握ってきた。
「え?あ、あの…」
突然の隆司さんの行動に戸惑っていると隆司さんが口を開く。
「鈴音の手…こんなに冷たく冷えてる」
「あ、あの…手袋をしないで出てきてしまったので…」
すると隆司さんは握りしめていた手を離すと、私の両頬に手を添えてきた。
「顔も…こんなに冷たく冷えている…」
思った以上に距離が近い。どうしよう…何だか隆司さんの様子が変だ。
「あ、あの。もう大丈夫ですから」
何とか隆司さんの手から逃れ、背中を向けると今度は突然背後から抱きしめてきた。
「鈴音、身体だってこんなに冷え切ってるじゃないか…」
私の耳元で囁くように言うので、驚いて身をよじって隆司さんから逃れた。
「た、隆司さん。どうしたんですか?何だか様子がいつもとは違いますよ?」
すると隆司さんは深いため息をつくと頭を押さえた。
「ごめん…。どうかしてた。兎に角話がしたいんだ。今コーヒーをいれるから…リビングで待っていてくれ」
「…分かりました。上着脱いできます」
「ああ…」
部屋に戻り、上着を脱いでリビングへ戻ると、丁度隆司さんがコーヒーを淹れてくれている最中だった。
リビングのソファに座ると、隆司さんは目の前のガラステーブルにトンとコーヒーを置いてくれた。
「ありがとうございます」
「ああ」
隆司さんは短く返事をすると、向かい側のソファに座った。
「「…」」
わたしも隆司さんも話すタイミングを失ってしまったかのように、暫くの間沈黙していたけれども、やがて隆司さんの方から先に口を開いた―――
「はぁ…」
隆司さんの待つタワーマンションを見上げてため息をついてしまった。隆司さん、電話口で何だか、怒っているように感じてしまった。麻由里さんも怒らせてしまったし、隆司さんまで怒らせてしまったかもしれない。
「やっぱり早急にここを出なくちゃ…」
でも、前回の様にろくな準備もしないまま、逃げるようにあの家から飛び出してマンスリーマンションに越してしまった時よりはお金に余裕があるから今度は普通の賃貸アパートを借りれそうだし…。
「隆司さんに会ったら年明けには引っ越す話をしよう…」
そして重い足取りで私は隆司さんの待つ701号室へ向かった。
ガチャリ
ドアを開けて玄関を見ると、もう麻友里さんのブーツは消えていた。
「帰ったんだ…」
てっきりまだマンションにいると思っていたんだけどな。玄関から上がってもいいかどうか躊躇しているとバタバタと部屋の奥からこちらに向かって来る足音が聞こえてきた。
「鈴音っ!」
隆司さんが駆けつけてきた。
「あ…た、ただいま戻りました…」
何と言ったらよいか分からず、照れ笑いしながら言うと、隆司さんは口を開いた。
「鈴音…良かった。帰って来てくれたんだな?」
その顔は安堵に満ちている顔に見えた。
「は、はい。今の私にはここしか帰るところが無かったので…」
そうだ、今の私にはここしか帰ってくる場所が無い…。でも本当は私はここにいてはいけない存在なんだ。だって、この部屋は本来は隆司さんと麻友里さんの部屋なのだから。
「外は寒かっただろう?どうした?何でまだ靴を履いたままなんだ?早く上がって来いよ」
「え、ええ。でも私がこの部屋にあがってもいいものかと思って…」
「…何で、そんな風に考えるんだ?」
隆司さんの声に怒気が含まれている事に気付き、顔を上げた。
「え?」
「ここは俺と鈴音の部屋だ。違うか?」
隆司さんは熱のこもった眼で私を見つめている。
「で、でも…。この部屋は隆司さんと麻友里さんの部屋だって…」
「麻友里が言ったのか?鈴音にそんな事を?」
「あ…」
「いいから、鈴音。早く中へ入れ」
「分りました…」
隆司さんが何だかイラついている様子だったので、私は素直にしたがって玄関から中へ入った。私が部屋の中へ入ると隆司さんが尋ねてきた。
「鈴音。寒かっただろう?コーヒーでも淹れるよ」
「あ、だったら私が…」
言いかけると、隆司さんが私の右手を握ってきた。
「え?あ、あの…」
突然の隆司さんの行動に戸惑っていると隆司さんが口を開く。
「鈴音の手…こんなに冷たく冷えてる」
「あ、あの…手袋をしないで出てきてしまったので…」
すると隆司さんは握りしめていた手を離すと、私の両頬に手を添えてきた。
「顔も…こんなに冷たく冷えている…」
思った以上に距離が近い。どうしよう…何だか隆司さんの様子が変だ。
「あ、あの。もう大丈夫ですから」
何とか隆司さんの手から逃れ、背中を向けると今度は突然背後から抱きしめてきた。
「鈴音、身体だってこんなに冷え切ってるじゃないか…」
私の耳元で囁くように言うので、驚いて身をよじって隆司さんから逃れた。
「た、隆司さん。どうしたんですか?何だか様子がいつもとは違いますよ?」
すると隆司さんは深いため息をつくと頭を押さえた。
「ごめん…。どうかしてた。兎に角話がしたいんだ。今コーヒーをいれるから…リビングで待っていてくれ」
「…分かりました。上着脱いできます」
「ああ…」
部屋に戻り、上着を脱いでリビングへ戻ると、丁度隆司さんがコーヒーを淹れてくれている最中だった。
リビングのソファに座ると、隆司さんは目の前のガラステーブルにトンとコーヒーを置いてくれた。
「ありがとうございます」
「ああ」
隆司さんは短く返事をすると、向かい側のソファに座った。
「「…」」
わたしも隆司さんも話すタイミングを失ってしまったかのように、暫くの間沈黙していたけれども、やがて隆司さんの方から先に口を開いた―――