本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

第7章 6 姉からの電話

 その時―

トゥルルルルル…

再び、スマホから着信音が流れてきた。

「え?また隆司さんからかなぁ…」

鳴り続くスマホをに取ると、今度は着信相手は亮平からだった。

「え?亮平…?」

どうしたんだろう?何かあったのかな?スマホをタップして私は電話に出た。

「はい、もしもし…」

『鈴音ちゃん…?』

「!」

受話器から聞こえてきたのはお姉ちゃんの声だった。

「お、お姉ちゃん…」

思わず声が震えてしまう。

『フフ…やっぱりね…』

「え?やっぱりって…?」

何だか怖い。お姉ちゃん…一体何を言い出すつもりなの?

『やっぱり鈴音ちゃんは進さんを誘惑していたのね。だってすぐに電話に出ちゃうんだもの』

その言葉に私の背中はゾクリとした。え?進さん…?どうして進さんの名前が出てくるの?そうだ、確かお姉ちゃんは亮平の事進さんだと思ってるんだっけ。

「お、お姉ちゃん…一体何を言ってるの…?」

震え声でお姉ちゃんに話しかける。すると冷たい声が受話器越しから聞こえてきた。

『とぼけないで頂戴、鈴音ちゃん。そうやってまた私から大切なものを奪っていくつもりでしょう?』

え?大切なものを奪っていく…?一体何を言っているのだろう?私には何の事かさっぱり理解できなかった。何と声を掛ければよいか思い浮かばなくて黙っていると、お姉ちゃんの話は続く。

『両親だけじゃなくて…松本君や進さんを…そうやって私から奪っていくのね…』

え…?お父さんお母さんを私が奪った?それに…松本君…って誰だっけ…?必死で記憶の糸を手繰り、ある人物が頭に思い出された。

「あ、あの…松本さんて…ひょっとして私の家庭教師をしていた人…?」

『ええ、そうよ。何…?今頃思い出したの?』

今思い出した。でも家庭教師をしてもらったのは確か半年程だったし、何故か1月で突然家庭教師を辞めてしまった。だけど、どうして今頃松本さんの名前が出てきたのかさっぱり分からない。

「お姉ちゃん…でもどうして松本さんの名前を…」

言いかけて私は息を飲んだ。まさか…2人は付き合っていたの?そう言えばお姉ちゃんが家庭教師として松本さんを紹介してくれたんだっけ…。

「ま、まさか…お姉ちゃんと松本さんて…付き合っていたの…?」

必死で震え声を押さえながら私は尋ねた。

『ええ、そうよ。彼は年下だったけど、お付き合いしていたの。それで鈴音ちゃんが大学受験する時に私が彼を紹介したのよ。恋人だったから彼はお金はいらないよって言ってくれて…。なのに…』

何だろう、その言葉の先を聞くのが…すごく怖い。

『松本君…言ったのよ。鈴音ちゃんの事を好きになっちゃったから別れてくれって…』

「!」

『信じられないでしょう?私の恋人だったのに、鈴音ちゃんを好きになったから、別れて欲しいって。それでやめてもらったのよ。鈴音ちゃんはまだ未成年なのに成人男性とお付きなんかさせられないって!』

知らなかった…。道理で松本さん…受験直前にいなくなってしまったんだ。でも松本さんのお陰で勉強方法が分かって、その後は1人で受験勉強することが出来たんだっけ…。

『それだけじゃないわ…。進さんだって…』

え…?何?まだあるの?しかも進さんって…。

『進さん…酷いわ。結婚すると思っていたのに…。それで結婚式の予約だってしたのに…いきなり別れてくれなんて言い出して…鈴音ちゃんの事を好きになってしまうんだもの。自分の気持ちにこれ以上嘘はつけないって言うのよ?酷いと思わない?』

電話越しでお姉ちゃんがシクシクと泣き始めた。そんな…嘘だよね?
どうして進さんが私を…。

「お、お姉ちゃん。それはいくら何でも…あり得ないよ。勘違いなんじゃないの…?」

今のお姉ちゃんは普通じゃない、だからこんな支離滅裂な事を言うんだ。なのに…。

『そうよ…進さん…本当は旅行はそんなにする人じゃなかった。でも鈴音ちゃんが旅行会社に興味があるって言う事を知って…鈴音ちゃんと会う口実で旅行の相談をしょっちゅう持ち掛けていたんだから…』

「!」

そう言えば…お姉ちゃんと進さんの旅行のプラン、いつも私が2人の前で立ててあげていたけど…そんな、まさか…。

『あの日…進さん、別れ話の為に私と旅行に…酷いわ…あんな街中で…信号待ちをしているときに別れ話をするなんて…』

ドクン

私の心臓が大きくなった。え…?それって事故の直前の話なの…?

『気づいたら…進さん…血まみれで道路に倒れていて…。だけどね…』

ドクンドクン

まるで耳に心臓が張り付いてしまったかのように私の心臓はうるさいほどになっている。嫌…この先の言葉を聞くのが…怖い…!

『事故から目が覚めたら…進さん、もう私の事しか眼中に無くなっていたのよ?やっと鈴音ちゃんへの思いを絶ってくれたのだから。もう、これ以上私と進さんの中を邪魔しないで』

身体を震え上がらせるほどの恐ろしく、冷たい声が私の耳元で囁かれた。

プツッ

そして電話は切られた――
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