君のスガタ
第一章「君のスガタ」
 春に近づいているのに、あの時は寒さが増していた。

十月にあるバレー大会に向けて、誰もいない体育館の中でサーブ練習をひたすら行った。

一人で練習するサーブの音が体育館に響き渡っていた。

その行動を誰かがひそかに見ていると知らずに。

        *

 四月某日の火曜日。春休み中は部活と出された宿題に追われていた。

 ほんと、あっという間で学校が始まるという実感はない。

学校が始まると、誰かに会うことすら恥ずかしいし、嫌になる。

「おはよう。めぐみ」

 私はこの四月から高校二年生になる。クラス替えがないので安心だ。

「あ、柚。おはようー、久しぶりね。元気してた?」

 歩いていると、私のポニーテールを引っ張って、声をかけてきた。

 この子しかない。めぐみだ。この子は私の親友。高校年生からの仲だが、なんでも話せる唯一信頼できる人だ。

「元気だよ。でも、部活と勉強だけで終わっちゃったよ」

「もったいないな! 柚は真面目すぎるんだよ。少しくらいサボっていんだよ」

 めぐみは私の肩をバンと叩いて、言った。

「…痛いから。めぐみ!」

 私は歩きながら、めぐみに微笑んだ。
< 1 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop