君のスガタ
松永先輩は何もなかったように話を続けた。
「じゃあ、もう暗くなるから帰ろうか」
松永先輩は私のコップもトレイに置いて、片づけてくれた。
片づけ終わったのを見計らって、目の前にいる松永先輩に問う。
「じゃあ、前に会ったことがあるって言ったのは嘘ですか?」
「……っ…嘘だよ…」
カフェから出たら、松永先輩は下に俯き、右方向に向いて、小さい声で私に言う。
「…松永先輩。それも嘘ですよね。私、分かりますよ。嘘ついてるって」
私でも分かる。松永先輩は分かっていないけど、素直だからこそ嘘が下手だ。
「……柚。確かに俺はバレーの試合が終わったら、話すと言った。でも、やっぱり今じゃ言えない。言おうと思ったけど、俺の気持ちがまだいろいろ整理できてない。だから、待ってほしいんだ。理由は聞かないでほしい。今日は帰るな」
松永先輩はカフェの入り口付近で私と見あわせて向き合う。
夕方になってきたので、仕事帰りのサラリーマンが携帯を持って、すいませんと申し訳ありませんと謝っていた。
声だけが耳の中から聞こえてきて、松永先輩を見据える。
「……待ってください!」
私は松永先輩を引き留めた。