君のスガタ
「あのさ、柚」

「なに?」

 私は歩きながら、めぐみに問う。

「松永慶先輩のことだけど……やめた方いいと思う」

 めぐみは私の顔を見て、真面目な表情で私に聞いてくる。

 やめた方がいいって、松永慶先輩はただの先輩だよ。

 でも、なんで私は嫌な気持ちになっているのだろう。

「なにがやめた方がいいの?」

 私は右方向に目を向けてから、焦点をめぐみに合わせた。

「さっき…聞いたんだけど。中学校の時、親友だった人に殴ったんだって」

「え?」

「さっき先輩たちが話してる時に聞いて。でも、斗真先輩は笑ってごまかしていたけど」

 めぐみは一歩ずつ足を踏み出して、私よりも前に出た。

 心配してくれている。

 私のために……

 それでも、私はそう思わなかった。

「…いや、でも、松永慶先輩はそんな人じゃないと思うよ。分からないけど……」

 私は立ち止まって、自分の足元を見て言う。

「噂はうわさを呼ぶっていうし。本当じゃないの? それでも、柚は松永慶先輩のことを信じるの」

 めぐみは私がいる後ろを振り返り、私を見据えた。

「……うん、分からないけど…」

 私は一言だけ言ってから、再び歩き始めた。
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