浮気されて振られたが、ハーフイケメン外科医に溺愛されています。
 もしかして彼女自身は相手が私だと知らなかったのかもしれない。
 しかし、彼女が居ると分かっているにも関わらずに関係を持ったのだ。だとすると加害者って事になる。

「ち、ちょっと、何するのよ!?」

「私は慶一郎の彼女です。叩かれる事をしたんだから当然でしょ?」

「ひ、酷い……私何も知らなかったのに」

 すると柚香は目尻に涙を溜めてぽろぽろと泣き出した。まるで自分は被害者かのように。

(はぁっ?)

 緋色は呆れた顔をすると賢一郎はパッと柚香を隠すように庇った。

「緋色。やめろって、いくら腹が立ったからって暴力は良くないぞ」

「はっ? 暴力って……」

「とにかく話し合おう。ほら、とりあえず緋色は彼女に謝って」

 賢一郎の言葉に緋色は絶句した。この人は何を言っているのだろうと。

(暴力でもなんでもないし、それをされておかしくない行動までしておいて私に謝れと言うの?)

 確かに大人なら冷静になって話し合いをしないといけないのかもしれない。
 だが、今の自分にそれをしろと言われても不可能だった。
 必死に歯を食いしばって我慢すると、その場を後にする。今話し合っても冷静な判断が出来ないと思ったからだ。後ろで賢一郎は慌てて呼んでいたが無視する。
 部署に戻ったが、急いでパソコンの電源を切って、カバンを持つとその場を出た。 
 休日出勤だったが、それどころではない。エレベーターに乗らずに階段を使って下りて行くが、途中で立ち止まり泣いてしまった。もう頭の中がぐしゃぐしゃだ。

 その後。一人暮らしをしているアパートに戻ると、ベッドの上に潜り込んでひたすら声を押し殺して泣いていた。
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