人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
「安心しろ、君には手を出さない。紙切れ一枚の結婚だ。君は家事をする、俺はそれで助かる、そういう契約だ。状況が落ち着いたら離婚して君は自由だ」
「自由……」
 和未は困惑した。自由になった自分が想像できなくて。
 わかるのは、帰ったら父たちにさんざん罵られ、殴られ、あの老人と結婚させられるということだ。

「離婚後は自立できるまでフォローするよ」
 将吾が言う。
 本当に、そんなことをしてもらえるのだろうか。
 自分は自由になれるのだろうか。
 楽観はできなかった。今までずっと自由はなかった。近いうちに連れ戻され、またつらい思いをするだけかもしれない。

 だったら。
 和未は晴仁を見た。
 ひとときでも、この素敵な人の妻であったという時間が欲しい。
 今まで自分の意志でなにかをすることは許されなかった。
 自分の意志で結婚したのだ、という記憶がほしい。

 和未はペンを受け取り、名前を書いた。指示されるままに残りの空欄も埋めていく。
「これは私が出しておこう」
 将吾はうきうきと婚姻届けを受け取った。

「面白がってるだろ」
「そんなことはないぞ」
 うきうきと将吾は答えた。

「汐路の家には俺が連絡しておく。報告書から察するに、会社の経営が危なくなって娘を生贄にしたんだろう。融資すると言えば、文句を言いながらも了承するはずだ」
 将吾が言った。

「最初からそうしたらいいじゃねえか」
「まともに交渉できる相手ならな」
 将吾が言う。
 このぶんではまだなにかあるな、と晴仁はため息を吐いた。
< 10 / 44 >

この作品をシェア

pagetop