人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~

***

 ありえない。
 おかゆを完食した和未は、どきどきしていた。
 テーブルで食事をすることが許されるなんて。
 しかも、レトルトとはいえ晴仁がわざわざ用意してくれたものだ。
 こんな幸せはいつ以来だろう。

「まさかと思うが、ちゃんとベッドで寝ているか?」
 晴仁に聞かれて、言葉につまった。それがまずかった。
「床にでも寝てるのか?」
 和未はうつむいた。違います、とは言えなかった。

「確認するから、寝ろ」
 一瞬、なにを言われたのかわからなかった。
「君が寝るのを確認してから寝る」
「どういう……」
「さっさと部屋に行け」
 低い声で言われて、和未は震えあがった。

「おかゆの器……」
「俺が洗っておく。病人は寝ろ」
 部屋に連れられて、ベッドに横にさせられる。
 布団をかぶると、彼はベッドの横に座った。
 男性のそばで横になるなんて初めてで、和未の心臓は早鐘を打った。

「開封してもいないのか」
 隅に積み上げられた宅配の箱を見て、晴仁が言う。
「私なんかに、恐れ多いです」
 和未は小さくなった。

「ここまでひどいとは思わなかった」
 届いたつぶやきに、和未はがばっと起き上がり、手を突いて頭を下げた。
「申し訳ございません!」
 和未は震えた。
 気分を害してしまった。このあとは怒鳴られるだろうか、殴られるだろうか。
 だが、晴仁はどちらもしなかった。

「怒ったわけじゃない」
 あきれるような声だった。
 ごそごそと、晴仁がポケットからなにかを取り出した。
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