人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
 二十五歳って、普通はどんなふうだろう。
 汐路和未(しおじなごみ)はため息をついた。

 庭に伸びる草を素手でむしりつつ、考えてみる。
 ちらりと見たテレビでは、仕事に恋に、輝いているようだった。
 少なくとも高校のジャージを着て家族に奴隷にされてはいないだろう。

 額の汗を拭い、土と草の匂いにまみれて次の草を引っこ抜く。
「いた!」
 草で手を切ってしまった。赤い液体がつーっと流れる。

 この血は父とつながっている。亡くなった母とは政略結婚だった。母の父——祖父の会社とのパイプを作るための結婚。
 父はその後、祖父の会社を乗っ取った。祖父母はショックを受けて亡くなり、母もまた心労から早世した。
 父はすぐに再婚した。継母も異母妹も、和未にはいつもきつく当たった。

「今日は草むしり? お疲れ様」
 かけられた声に顔を上げると、社長である父の秘書、平野優一(ひらのゆういち)がいた。
 彼は優しくて、飴やチョコをくれる。だから和未は彼が大好きだった。それが恋なのかどうか、いまいち判然としなかったが。

「手を切ったの? 傷口を洗わないと」
「大丈夫です」
「破傷風になったらどうするの」
 彼は庭の水道まで和未を連れて行き、手を洗わせてくれた。ティッシュで拭き、絆創膏をはってくれる。
 彼との距離が近くて、和未の胸がぎゅっとした。

「今日も父に呼ばれたんですか?」
「書類を届けにね」
 またね、と挨拶を残して彼は家に入って行った。

 彼みたいな人が恋人なら、と考えて和未は顔を赤くした。
 そんな夢みたいなことあるわけない。

 彼はしばらくして家を出て行った。
「ゴミ! ちょっと来て!」
 和未は立ち上がった。彼女は家族からゴミと呼ばれている。
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