人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
「うまいメシの礼だ。これからも頼む」
「……はい!」
 初めて、母以外の誰かに認められた。
 和未はうれしくてたまらなかった。



 晴仁はティールームに和未を連れて行った。
 ヨーロッパのアンティーク調で整えられていて、華やかながら落ち着いた雰囲気があった。
 夢みたいな日だ、と和未はうっとりした。
 晴仁に連れ出されてから、毎日が幸せだ。

 殴られないし、罵られない。倒れたら病院に連れて行ってもらえて、ごはんも食べさせてもらえる。家事をしたら礼を言われて、料理をおいしいと言ってもらえる。

 それだけでも幸せなのに、身なりを整えてもらえて、いろいろ買ってくれて、そのうえ、こんな素敵なお店でおいしそうなケーキセットまで。

 運ばれた背の高いケーキを夢見心地で眺める。茶器は白地に金の縁取りがあって上品だった。
 それからハッとした。
 こういうときはスマホで写真を撮るんじゃなかっただろうか。
 慌ててスマホを出して、カメラを起動する。

 ケーキを写真に収め、それからも恍惚と眺めた。白いクリームに包まれ、断面にはカラフルなフルーツが見えている。天辺に乗っているイチゴは赤くつやつやとしていた。
 視線に気が付いて顔を上げると、晴仁が微笑して自分を見ていた。

「す、すみません、なにか……」
「うれしそうだな、と思って」
 なんだか恥ずかしくなってうつむいた。

「すみません、本当にうれしくて……」
「眺めるのもいいが、ケーキは食べるものだぞ?」
「は、はい。いただきます」
 和未はおずおずとフォークを刺した。

 食べると、甘くて濃厚なクリームが口の中いっぱいに広がった。生地はふんわりとほどけるようだ。
 紅茶を飲むと、ほのかな渋みがケーキの甘さを流して口をさっぱりさせてくれた。

「おいしいです」
「それはよかった」
 コーヒーを飲み、彼は答えた。
 なんて幸せなんだろう。
 和未は幸せを少しでも長引かせたくて、ゆっくりとケーキを頬張った。
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