人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
 しかし、どれだけがんばってもいつかはケーキはなくなる。
 食べ終わった和未はさみしい気持ちになった。
 幸福が終わってしまった。

 ちらり、と晴仁を見る。
 彼とすごす時間は幸せとイコールだった。
 この幸せはいつまで続くのだろう。
 できるなら、少しでも長く、彼と……。

「クリームがついてるぞ」
 彼が手を伸ばして、和未の口の端をぬぐった。
 彼の親指がやわらかく唇に触れ、和未はどきっとした。

 彼はそのまま、指についたクリームをペロッと舐める。
「甘いな」
 まるでキスされたみたいで、和未の顔がかあっと熱くなった。

 今までに感じたことのない感情が胸に生まれた。熱く燃えるようだった。
 もっともっと晴仁に近付きたい。そんな欲望が生まれて、和未はそれを持て余した。
 いったい自分はどうしてしまったんだろう。こんな気持ちになるなんて。

「ゴミ!」
 突然、叫び声が響き渡った。
 和未は体を震わせた。
 聞き覚えのある声、それにこの呼び方は。

「やっぱり、ゴミ! なんでこんなところにいるの!」
 紅愛だった。ゆるふわのワンピースを着て、ばっちりメイクをしている。

 和未は顔をひきつらせた。
 どうしてここに。
 思うと同時に、悟った。幸せはこれで終わりだ。
 少し離れて、戸惑うように優一が立っていた。二人のデートと行き合ってしまったのだ、と気が付いた。

「あんたのせいで大変なのよ!」
 紅愛は叫び、周囲の人々が一斉に彼女らを見た。
 和未はとっさに床に土下座した。

「申し訳ございません!」
「あのじじい、私に嫁に来いって言うのよ! 早く家に戻りなさいよ! あんたが嫁に行けば解決なんだから!」
「やめないか」
 うんざりした声で、晴仁が制止した。
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