人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
「なによ!」
 振り向いた紅愛は、晴仁を見て固まった。
 険しい顔をした彼は、それがゆえにさらに凛々しく紅愛の瞳に映った。
 紅愛はすぐに表情をゆるめた。にっこりと笑顔を浮かべて晴仁を見る。

「どちら様かしら」
「彼女の夫だ」
「はあ!?」
「和未さん、立って」
 初めて彼に名を呼ばれ、手をとられ、立たせられる。

「あんたがゴミを……こいつを誘拐したの?」
「失敬な。妻を助けただけだ」
「警察に捕まえさせるから!」
「できるものならやってみろ」
 晴仁はせせら笑う。

 和未はおろおろして、自分が警察に捕まったときのことを思い出した。
 子供の自分には警察官はみな背が高くて、制服姿なのもまた怖かった。
 警察は殴ったり蹴ったりする家族の元へ自分を返した。正義の味方なんて嘘だ。紅愛が晴仁を誘拐犯だと言い付けたなら、真実を見極めることなく彼を捕まえるかもしれない。

「誘拐じゃないです。警察には言わないでください」
「ゴミのくせに命令する気?」
「申し訳ございません!」
 和未は必死に頭を下げた。

「いいこと教えあげる。この女はすごい淫乱なのよ。何人も男がいて、スマホには出会い系のアプリがいっぱい入ってて」
 そんなの嘘だ。
 和未は青ざめた。だが、自分が否定したところで、どうせ誰も信じてはくれないのだ。

 ぷは、と吹き出す声が聞こえた。
「スマホを持ってないのに、どうやって出会い系アプリを入れるんだよ」
「笑うなんて失礼よ!」
「それ以上に恥知らずなことをしている自覚はないようだな」
 笑いを消し、晴仁は紅愛をにらむ。

 紅愛はたじろいだ。
 晴仁は名刺ケースから一枚を取り出し、紅愛に差し出した。
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