人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
3
翌日、和未はどきどきしながら晴仁の買ってくれた部屋着を着た。彼がそう命令したからだ。
昼食後にリビングに行くと、彼がソファにくつろいで座っていた。
ソファで彼の隣に座るようにと命令された。
座ると、床と違ってやわらかかった。
彼の体温が近くて、どきどきした。
彼はいつも幸せな命令をくれる。
彼の命令ならなんでも……たとえこの命を奪うものであっても幸せな気持ちで従える気がした。
彼は和未の手をとった。
「傷、治ってきているな」
「はい。ありがとうございます」
洗い物は食洗器でいいというし、そうでないときは手袋を使っていいと言ってくれた。
彼がくれた香りの良いハンドクリームのおかげもあって、どんどんよくなっていた。
手が痛くない、と気が付いたときには感動した。
手だけではない。殴られないから、全身が痛くない。
いつも傷があって当たり前、痛くて当たり前だった。
彼が一人前のごはんを食べさせてくれるから、肌も髪も順調に状態が改善されていた。
「顔色も良くなったな」
彼の手が頬に伸びて、びくっと体を震わせた。
だが、彼は殴ることなく頬にそっと手を添える。
彼の大きな手が温かくて、和未の鼓動は早くなる一方だった。
彼が本当の夫ならいいのに。
そう思って、胸がしめつけられた。
紅愛に再会したとき、すべてが終わるのだと思った。
予告なく訪れた終末に心が壊れそうだったが、彼は紅愛を撃退してくれた。
もう少し、幸せでいられる。
うれしくてしかたなかった。
いつか来る終わりのあと、日常はこれまで以上につらくなるだろう。幸せを知ってしまった今、それはさらに胸をえぐるに違いない。
だけど、この甘美な時間を自分の手で捨てる気にもなれなかった。