人助け契約婚の結末 ～守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令～

「わかったら家に戻りなさい。今すぐに」
「嫌です」
　和未は思わず答えた。
　珍しい彼女の反抗に、紅愛は目を吊り上げた。

「ゴミのくせに逆らうの！？」
　紅愛が腕を振り上げた。
　殴られる！
　和未が身を竦めたときだった。

「やめろ」
　厳しい声が降ってきて、和未をひっぱる腕があった。
　気が付くと、和未をかばって晴仁が立っていた。殴ろうとする紅愛の腕を掴んでいる。

「晴仁さん！」
　紅愛が笑顔になった。
「なれなれしく呼ぶな」
　晴仁は嫌悪もあらわに紅愛に言う。それから優しい目を和未に向けた。

「勝手にいなくなるな。心配したぞ」
「申し訳ございません。夕食の買い物にと思いました」
　和未の頭を撫でてから、晴仁は紅愛をにらむ。

「警告を無視した。それなりの対処をさせてもらう」
「なにもできないくせに」
　紅愛は鼻で笑う。

「そんな女より、私と結婚したほうがいいわよ」
「気持ち悪いことを言うな」
　晴仁はなめくじでも見るかのように嫌悪に目を細めた。

「買い物はネットで済ませればいい。帰るぞ」
　晴仁に連れられ、和未はマンションに戻る。

「絶対に許さないから！」
　その背に、紅愛の声が殴るように届いた。
　なにをする気だろう。
　和未は恐怖に震えた。

　部屋に着くなり、晴仁は和未を抱きしめた。
「君は俺が守るから。ここにいろ」
　和未は驚いた。そんなこと、ありうるのだろうか。

　だけど、と思い直す。
　彼は意にそわない結婚から救い出し、紅愛の攻撃から守ってくれた。その事実は彼の言葉を裏付けるには充分だった。