人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
「とはいえ俺は仕事で忙しくなる。君は外出を控えろ。あの女の対処は君にはできないだろう」
「はい」
 和未はうなずいた。

 だが、心には不安が残った。
 紅愛は、和未のせいで彼が大変なことになっていると言った。
 自分がここにいる限り、彼に……彼の会社に迷惑がかかるのではないだろうか。

 その思いは時間がたつごとにふくらんでいき、和未の心を飲み込んでいった。



 翌日も和未の心は晴れないままだった。
 彼が出勤したあとの部屋で一人、考え込む。

 自分がいるから彼に迷惑がかかっている。
 和未の心は重くなる一方だった。
 彼は自分を助けてくれたのに。
 自分はなにもできず、むしろ彼の足かせになっている。

 彼の力になりたい。せめて邪魔をしないように、そのためには実家に帰ってあの老人のところに行くのが良いのだろう。

 だけど。
 命令だ。ここにいろ。
 彼にはそう言われていた。
 彼の命令に逆らうことに胸が痛んだ。

 だが、それよりも彼を守りたい。
 彼は優しい。逆らってもきっと自分を殴らない。

 たとえほかの誰にどれだけ殴られようとも。
 どれだけ苦しく罵られても。

 この先、一生が奴隷になったとしても。
 彼だけが私に幸せをくれたから。

 和未は歯を食いしばり、立ち上がった。
 行きたくない。彼と離れたくない。
 心がひっぱられる。

 最初から、わかっていたことなんだから。
 和未は必死に自分の心をなだめる。

 別れることは既定路線だった。その先に倍増された苦しみがあるだろうことも予想の範囲内だ。
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