人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
 いつも自分には決定権も行動する権利もなかった。テレビ番組を見ることはもちろん休日の朝寝坊、そんな些細なことすら許されなかった。

 だけど、これだけは絶対に譲れない。
 彼を助ける。それだけは。

 和未は与えられた服を脱ぎ、最初に着ていたぼろぼろのブラウスとスカートを着た。結局使わなかった十万円をテーブルに置いた。

 迷ってから、スマホを手に持った。
 これがあれば、彼と離れても気持ちだけはつながっていられる気がした。

 高価なものだと知っている。本当なら置いて行かなければいけないものだ。
 だけど、どうしても置いて行く気にはなれなかった。

 たとえ泥棒だと言われても……いっそ、その罪で警察に捕まった方がいいのかもしれない。
 和未は部屋を出て行った。
 見送る者はなく、扉の閉まる音が空虚にぱたんと響いた。



 和未はスマホ決済で切符を買って帰った。
 勝手に彼のお金を使って申し訳なかったが、もう謝ることすらできない。

 きっと軽蔑されるだろう。嫌われてしまうだろう。
 優しくしてやったのに、と罵られるかもしれない。
 考えるだけで苦しかった。

 家に着いて、インターホンを鳴らす。
 出たのは継母の紗世子で、すぐに扉を開けてくれた。
 家に入ると、そのままリビングに引きずられ、倒される。

 険しい顔の紗世子と達弘、紅愛が和未を見下ろす。
「よくも戻って来れたものだな。蒲谷さんはとてもお怒りだぞ」
「申し訳ございません」
 土下座をすると、達弘に横腹を蹴られた。

「生意気、ゴミクズのくせにスマホなんて」
 和未の手を見て、紅愛が言った。
「よこしなさい」
 とっさに和未はスマホを握り込んだ。

 だが、紅愛に蹴飛ばされ、力が緩んだ隙にとられた。
 紅愛は和未のスマホを操作してメッセージを送信した。

「晴仁さんに、嫌いになったので家を出ますって送っておいたから」
 紅愛はこれみよがしにスマホを和未に見せつけた。
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