人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
「これは没収よ」
「返してください。私のものじゃないんです」
「泥棒したのね。服を盗むだけのことはあるわ。くず。生きる価値なし」
「違います。お借りしてるだけです」

「私が返しておいてあげるわよ」
 紅愛が蔑みの笑みを浮かべた。
「スマホケースなんて生意気」
 紅愛はケースを外して床に落とすと、踏みつけた。

「やめてください!」
 和未は慌てて手を伸ばす。紅愛はその手を踏みつけた。うう、と痛みに声をもらす和未を見て満足そうに目を細める。

「まずは離婚だな」
「離婚なら慰謝料がもらえるんじゃない?」
 達弘の言葉に紅愛がはしゃぐ。

「勝手に出て来たなら慰謝料は無理だ」
「DVがあったことにすればいいのよ」
 名案だ、と言わんばかりに紗世子が言う。
「あの人はそんなことしません! 優しくて素晴らしい方です!」

 紅愛は和未の髪を引っ張った。
「痛い!」
「あんたの意見なんて聞いてないの」
 紅愛は髪をひっぱり、和未の頭は振り回された。
「DVならケガさせておかないとね」
 髪を捨てるように離し、紅愛は言った。

「それもそうだな」
 言いざま、達弘が和未を蹴った。勢いで和未は仰向けに転がった。
 その足を、紅愛が蹴る。痛くて、足を抱えて丸くなった。

「あんたなんか大っ嫌い!」
「うじ虫の方がまだ世の中の役に立ってるわよねえ」
 紗世子はほうきを持って来て、その柄で和未の背を殴る。

 痛みにうめく和未を、さらに三人で殴り、蹴る。
 三人の笑い声が、ぐわんぐわんと頭に響く。

 虐待をする者にとって、それはエンターテインメントだ。だからどんなに和未が苦しんでもその行為をやめない。

 ふいに、昔見かけたテレビのワンシーンが頭に蘇った。
 テレビの中の人物は、人には役割があるんです、と言った。
 当時、掃除をしながら、気になって耳をそばだてた。
< 33 / 44 >

この作品をシェア

pagetop