人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
 だから、大切なんですよ。どれだけ死にたくても生きなくてはいけないんですよ。

 艶のいい肌をして高そうなスーツを着た男は、したり顔でそう言った。

 だったら、私の役割は。ずっといじめられて苦しむのが私の役目なんだろうか。

 いじめている彼らはいつも楽しそうだ。そうやって彼らを楽しませるためだけに生まれたんだろうか。そんな役割の人間が必要なんだと、そう言うのだろうか。

 彼女の心の問いに答える者は誰もいない。

「泣きもしないなんて可愛げがない」
 達弘が言う。
 確かに前は殴られるとすぐ泣いていた。だが、今日はなぜか涙が出ない。

 きっと、と和未は思う。
 きっと彼に出会ったせいだ。彼が喜びの涙を教えてくれた。だから涙の意味が変わったんだ。

「私のことは」
 必死に和未は言葉を紡ぐ。
「私はどうなってもいいです。だから、あの人の会社に嫌がらせするのは、やめてください」

「私たちがやってることじゃないから知らないわ」
「自分で頼んだらいいじゃない」
 嘲笑いながら、三人は暴行を続ける。
 殴られ疲れ、和未が体を丸くすることすらやめたころ、ようやく彼らも暴行をやめた。

「これぐらいやれば大丈夫か」
「ああ、疲れたわ。筋肉痛になりそう」
「その分慰謝料が増えるんじゃない?」
 労働の対価を話すかのように、三人は笑った。

 和未は立ち上がろうとして、どしゃっと倒れた。
「なによ、あんた」
 紅愛が言う。
「行か、ないと」
 和未は言う。

「どこへ行くって言うのよ」
「嫌がらせを、やめて、もらい、に」
 立ち上がろうとするが、力が入らずにまたも崩れ落ちる。

「感じ悪! けなげなふりして!」
 和未の背を、紅愛はぐりぐりと踏みつける。
 和未はうめき声すらあげなかった。そんな力も、もうない。

***

 晴仁は難しい顔をして会議室にいる面々を見た。
 一様に暗く険しい顔をしている。社長は取引先に説明に出ている。
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