人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
 スパイウェアに関する炎上について緊急会議が行われていたが、良い解決法は出そうになかった。

 株は急落しているし、とにかく打開策を見つけなければならない。
 とはいえ、沸騰した頭では良いアイディアが出るとも思えない。

 晴仁は会議を中断し、休憩を指示した。
 和未に連絡をしようか、迷う。

 プログラム開発の資金を得るために、彼女を見合いから連れ出し、結婚までした。
 最初、彼女は晴仁にびくびくと緊張していた。
 うざいとすら思ったのに、食事をほめられて喜ぶ姿がいじらしかった。
 医者にDVを疑われて腹が立った。別れるまでに絶対に健康な普通の女性にしてやる、と思った。

 一緒に暮らして虐待のありさまを見せ付けられ、痛々しかった。異常な頻度の謝罪に、おびえ。殴られるための道具を自分で用意させられるなど、想像の範囲外だった。
 怒りが湧き、彼女を守るのは自分だと思った。

 なにもかもに遠慮する彼女だが、命令だと言えば従うことがわかり、しばらくはそれで過ごすことにした。
 最初は戸惑いながら、次第に素直に、やがてはうれしそうに命令を聞く彼女が愛おしくなってきた。

 ケーキをいつまでも見つめている姿には、思わず笑みがこぼれた。
 ただ慈しむ気持ちが胸にあった。

 頭を撫でると、無防備、無警戒にされるがままになっているのがたまらなかった。全幅の信頼をおいてくれている、それがうれしい。

 やわらかな頬をなでると、その唇に触れたい誘惑にかられた。衝動に勝てずに戯れのように触れる。彼女は無抵抗にされるがままだった。

 自分のものにしたい。
 カッと熱が湧き上がり、全身を駆け巡る。彼は自分の本心を……彼女への愛を悟った。あのまま押し倒さなかった自分を褒めたいくらいだ。

「君は、どう思っているんだ」
 思わず聞いていた。
 よくそんなことを、と苦笑する。
 一緒にいたいと、そう言ってくれると思っているからこその質問だ。

 結局、「ここにいろ」と命令してしまった。
 卑怯だと思う反面、今だけは仕方ないと自分に言い訳をする。
 彼女が心身ともに健康になったそのときには。

 そのためにも今は炎上の対策をしなくてはならない。
 和未の無事だけ確認しておこうと思い、副社長室に戻ってスマホを見る。
 嫌いになったから家を出ます、とメッセージが来ていた。
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