人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
 和未は首を振った。
「ご迷惑をおかけしてばかりで、申し訳ございません」
「謝るよりお礼を言えといっただろう?」
「……ありがとうございます」
 和未の言葉に、晴仁はやわらかく笑んだ。

「俺も礼を言わなくてはな。俺を守ろうとしてあの家に行ったんだろう?」
 通話から聞こえた音声で、晴仁はそう判断していた。

「思いのほか君は勇敢だな。うれしかった。ありがとう」
 頭を撫でられて、和未は目を細めた。

 病院では証拠のために傷の撮影をされ、治療を受けた。全身を殴られて腫れていたが、幸い骨折はなかった。
 警察が病院にも来て、和未は起きたことをそのまま話した。
 被害届を出すかどうか聞かれ、迷った。
「家族間のことで被害届を出すと、後悔される人もいます。よく考えてください」

 警察の言葉に、和未はひるんだ。警察としては確認のために言っているのだが、和未は暗に出すなと言われていると感じた。警察が彼らの味方をしているようで怖くなった。

「君は長いこと被害を受けて来た。届けを出す権利は充分にある」
 晴仁はそう言った。が、被害届を出したら殴られるのでは、と反射的に思って和未は震えた。

「俺は出した方がいいと思っている」
 和未が顔を上げると、晴仁は真剣な顔で和未を見ていた。
「前科をつけたほうが接近禁止をとりやすくなる。身内に前科者がいるのは今後の人生に不利かもしれないが、それであっても、だ」
「前科……」
「後悔したら、そのときは俺のせいにしろ」
 和未は首を振った。

「後悔なんてしません」
 和未は決意を持って宣言し、被害届を出した。
 和未にはもう、晴仁がすべてだった。自分を虐待する人たちより彼のほうが大切だ。彼を貶めようとした人たちを許す気にはなれない。

「あとは任せろ」
 晴仁の力強い言葉に、和未はうなずいた。
 別れが迫っている、と胸に痛みを抱えながら。

 病院からは彼と帰った。
 一緒にいられることに胸があたたかくて、うれしくてうれしくて、帰り道がずっと続けばいいのにと思った。
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