人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
「言っておくけど」
 紅愛は和未に近寄り、その耳に囁いた。
「優一さんは私のものだから」
 和未は体を硬直させた。

「彼が来るたびに赤くなって、ばっかみたい!」
 げらげらと紅愛は笑う。和未は羞恥に身を縮めた。

「明日、見合いだからな」
「かしこまりました」
 どうしよう。よそ行きの服なんて持ってない。
 だけどそれを言ったら怒られる。
 和未は泣きそうにうつむいた。

***

「お前、結婚しろ」
 父、将吾(しょうご)に言われ、石霞晴仁(いしかはるひと)は顔をしかめた。
 社長室に呼ばれたからなんだと思ったら、結婚とは。

「なんだよそれ」
「人助けだ」
 晴仁はあきれて将吾を見た。

「婚約だけでもいい。お前がやりたがっていたAI開発、資金をだしてやるから」
「本当か?」
 晴仁は胡散臭げに将吾を見た。

 晴仁は医療用AIの開発を提案していた。医療の知識も必要なそれは、大変な時間と人件費が必要になる。
 採算がとれるのはかなり先だ。費用に見合う収益が得られる保証はない。出資はどこからも断られていた。

 だが、これは必要なものだ。
 過疎地では充分な医療が受けられずに苦しむ人がいる。大病院での診察では何時間待ちという状態が変わらずに発生している。
 これらを解決するのにAIは必要だ。ITで人を救う、それが彼の夢だった。
 そのために仕事に邁進し、父に力を認めさせ、副社長の地位を得た。

「人助けってどういうことだよ」
「知り合いの娘さんが虐待されていて、不本意な結婚をさせられそうなんだ」
 それに関する調査会社の報告書も見せられた。
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