人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
 なんのことかわからず、和未は彼を見た。
「なんでもない」
 そのまま晴仁は黙ってしまった。
 和未もまた黙って彼の隣に立ち、海を眺めた。

 晴れた空の下、海の風が心地よい。
 観光客も地元の人も入り交じり、明るい声が響いている。

 終わりを告げられるのだろう、と和未は思った。
 彼は助けるために結婚したと言った。
 それが達成された現在、もはや結婚の体裁をとる必要はない。

 涙が自然とあふれて来た。
 こらえなくちゃと思うのに、それはぽろぽろとこぼれ、止められない。

「どうした?」
 晴仁が驚いて尋ねる。
「すみません。お別れなのだと思うと……」
「悲しいのか? うれしいのか?」
「悲しいです」
 答えると、ふっと晴仁が笑った。

 どうして笑うのだろう。
 和未はさみしくなった。彼は別れるのが悲しくないんだ。

 彼の手が和未の頬に伸びた。
 びくっと震えた和未の頬に触れ、涙を拭う。
 手の感触が優しくて、さらに熱く雫があふれた。
 忘れないでおこう。この優しい手触りを。絶対に、なにがあっても。

「君は俺が手を伸ばすたびに怯える。だが、この腕は殴るためじゃない。君を守り、抱きしめるためにあるんだ」
 彼は和未の顔を上向かせた。

 和未は彼を見た。
 守るため。抱きしめるため。
 言葉が温かく胸に響く。
 それが本当なら、どれだけうれしいだろう。どれだけ幸せだろう。

「俺は君が好きだ」
 和未は目をみはった。

「本当は、君がもっと自分を取り戻してから言うつもりだった。だが、君の涙を見てしまったら、もう待てない」
 和未は返事ができず、ただ彼を見つめた。

「別れを悲しいと言ってくれる。君も俺に好意があると思っていいのかな?」
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