人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
 顔を上げると、背の高い男性が和未を見下ろしていた。さきほど見とれた焦げ茶の髪の青年だ。
「汐路和未、間違いないな?」
 聞かれて、思わず頷いた。

「お前はなんだ、失礼だな」
 権蔵が不機嫌に言う。
「彼女は俺が嫁にする。お前に用はない」
「なんだと!?」
 権蔵は怒り、次いで和未を見た。

「お前、男がいたのか! 処女とか言って騙したのか!?」
 なにが起きているのかわからなくて、和未はただ首を振った。

「これは一応、見合いだろ? 彼女は結婚を断った。騒ぐほどのことじゃない。結婚は本人の自由意思によると法律でも決まっているからな」
 せせら笑うように言い捨て、彼は和美の腕を取って歩き出す。

「ふざけるな!」
 怒る権蔵は、追いかけようとして転んだ。
 青年は一顧だにせず、ずんずんと歩く。

「待ってください!」
 和未は慌てて彼を止める。
「私、行かないと。でないと……」
「あの好色老人と結婚したいのか?」

 和未はピタッと止まる。
 結婚したいなんてこと、あるわけがない。だが言いつけを守らない場合……。

「帰ったら殴られるんだろう? 俺と一緒に来い。逃がしてやるから」
 逃げるなんてとっくの昔にあきらめていた。
 お金は一銭もないから交通費すらない。

 小学生のころ、逃げだしたことがあった。
 警察に見つかって家に連れ戻され、その後ひどく暴力を受けた。
 それ以来、逃げるのは諦めていた。
 逃げる。
 そんな夢のようなことができるのだろうか。

「まどろっこしいな」
 彼は和未を抱き上げた。
 和未は驚きのあまり声も出ない。
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