人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~
 異性とまともに話したことは数える程度。ましてや触れ合うなんて、まったくなかった。
 なのに、いきなり抱き上げられている。
 彼の体温を感じてどきどきした。爽やかに香るのは香水だろうか。

 外に出た瞬間、日差しが眩しくて和未は目を細めた。
 見上げる彼はもっと眩しくて、見ていられなかった。



 車で連れられたのは、彼が住むマンションだった。
 リビングには彼に似た年配の男性がいた。

「無事か」
「話しに聞いた以上のひひじじいだった」
 うんざりしたように青年が言う。
 和未は戸惑って立ち尽くす。

「とりあえずこっちに来て座って」
 和未はソファの前まで行き、床に正座した。
 男性と青年が驚いて和未を見る。
 和未は焦った。座ってはいけなかったのだろうか。

「申し訳ございません! 本当に座ってしまいました!」
 すぐに和未は土下座した。

「重症だな」
 青年が言う。
「顔を上げて」
 男性に言われて、和未はおずおずと顔を上げる。

「まだ名乗ってなかったな。俺は石霞晴仁。石霞エンジニアリングの副社長をしている。こっちは父で社長の将吾」
 青年——晴仁が言う。

「汐路和未です」
「和未さん。今までつらかっただろう」
 将吾に言われ、和未は不安を隠せず彼を見た。

「私はあなたの亡くなったお母さんとは知り合いでね。最近、あなたの状況を知った。なんとか助けたいと思って息子を行かせたんだ」
「助け……」
 和未は呆然とした。
 今まで誰にも助けてもらえなかったのに、本当に?
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