愛する秘書さん、そろそろ大団円といきますか
専務と秘書
 ピーッ
「今入りました」
「書斎に行って」
「はい」
 会社から一番近いタワーマンションの最上階。5LLDKメゾネットの間取りに加え、広い玄関スペースにシューズクローゼット。リビングへ続く廊下は驚くほど長い。主のいないその家を、私は迷うことなく書斎へ向かう。
「書斎、開けます」
 私はロックを解除し、書斎に入った。
「デスクの左上の引き出しに入ってるはずだ。開けてみて」
「はい」
 言われた通りデスクの左上の引き出しを見てみると鍵穴があった。
 鍵!? これに鍵がかかっていたら大変だ。
「専務、デスクの鍵は……?」
「かけてない。そこに入れるのは蒼典と愛茉だけだから」
 このタワマンには週に3回清掃会社が入ることになっている。業者が入ることを考慮し、全室にこのような貴重品を管理する部屋が一室設けられているのだ。どうやら静脈認証を済ませているのは、この部屋の主を除いて兄と私だけらしい。
「あった!」
「あったか……」
 電話越しにもホッとした様子が伺える。
 引き出しから取り出したのは、赤い表紙のパスポートだ。
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