愛する秘書さん、そろそろ大団円といきますか
「いやっ! 離して!」
「……ぇま、愛茉! 俺だ」
「え……」
 私の手を掴んでいるのは金森でなく、暉明だった。
「暉くん……」
「どうしたんだ、そんなに急いで……お前、その恰好……」
 服装は乱れ、顔は涙でぐちゃぐちゃだ。
 明らかに私の身に何か起こったとわかる。
 そこへ金森が私を追ってやってきた。
「おい! 何しやがるんだよ! 可愛がってやったのに歯向かいやがって!」
「……お前、冬堂の社員か?」
「は? なんだよ……げっ、プ、プリンス⁉」
「部署を言え」
「い、や、俺は何も……誘ってきたのはその女のほうなんですよ」
「ちがう! その人が無理やり――」
「くそっ……俺たちはただ飲んでただけです! そいつに突然キスされて被害者はこっちなんだ」
 ひどい。被害者はこっちなのに!
 しかし強がっていた金森も、冬堂のプリンスである暉明のにらみには臆したようで「き、気をつけろよな!」とよくわからない捨て台詞を吐いて逃げ出していった。
「来い」
 私の腕を掴んだ暉明がタクシーをとめ、私を先に車へ押し込み、自分も乗ってきた。
 まだ残っているアルコールで頭が回らない。
 タクシーが停まったところは暉明が一人暮らししているタワーマンションだった。
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