愛する秘書さん、そろそろ大団円といきますか
「覚えていますよ。芳井さんは後輩に対して常にあたりがキツかったですね」
 果たして、警備員は予想以上に芳井と愛茉のことを覚えていた。
 警備員の証言では、芳井は見た目のいい男性のみ応対し、女性や歳を召した方はもう1人の受付に押し付けることが多かった。
 特にひどかったのは、一昨年のこと。後輩に対して暴言を吐いたり、足をひっかけて転けさせたりしていたというのだ。
「それは田崎愛茉のことですか?」
「そうです。彼女が辞めてしまうのではないかと心配していました。秘書課に移られたと聞いてひそかにホッとしていたんです。それから彼女は常に時間外出入口を通るようになりました」
「は?」
「彼女は秘書になってから一度も正面玄関を通っていません。昨日専務と一緒に正面玄関のゲートを通られたのは本当に久しぶりでした。ゲートの出入りであれば記録が残っていますのでお見せできますよ」
 冬堂製薬本社ビルでは、正面玄関に改札のようなゲートを設けている。
 社員は社員証をかざしてゲートを入り、来館者は受付でビジター証を受け取り入館する。
 時間外出入口にはこの警備室があり、その前にあるリーダーに社員証をタッチしなければ通過できない。出入りは厳重に管理されているのだ。
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