愛する秘書さん、そろそろ大団円といきますか
「申し訳ない」
「いや、お前が謝るのは――」
「俺の婚約者のことだ。俺が謝るのは当然のことだよ」
 こういうところも実に惜しい。渡会がいいやつすぎる。
「芳井千香子が愛茉をいじめていたことを、警備員が全てを見ていた」
「そうか……」
「ただ、芳井はすでに有給消化に入っている。こちらでは処分のしようがない」
「……」
「だからと言って、俺はこのままにすることはできない」
「ああ」
「一つ聞く。お前、別れる気はないんだな?」
「ない。千香子のそういう二面性には気づいていた。それでも俺に対しては偽りのない愛情を感じたから」
 俺から見た芳井と、渡会の見ている芳井はきっと違うのだろう。
 しかし愛茉を苦しめた落とし前はつけてもらう。
「まずは芳井から愛茉に正式な謝罪がほしい」
「当然そのつもりでいた。もちろん本人も謝罪したいと言っている」
「そしてお前には……インドネシアへ行ってもらう」
「……!」
「わが社は北米には明るいが、アジアではまだまだだ。今現在インドネシア支社はあるが、ビルの一室でただ事務所を開いているだけの状態だ。お前にはそこの責任者として赴任し、いずれアジア全域に冬堂の製品を広めるための拠点を作ってもらいたい」
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