油圧ショベルに乗った王子様~ノーブルな土木作業員は元気娘を愛でる~
なんか、あんな人間に食べられているドーナツが可哀想になってきた。

「すみません、お待たせしました」

山背部長がドーナツを平らげてコーヒーを飲み干した頃、社長が帰ってきた。

「おっせーよ」

「申し訳ありません」

恐縮して社長は彼の前に座ったが、悪いのは連絡なく来た山背部長だ。

「それで、ご用件は……」

「忘れた」

まったく悪びれる様子もなく、山背部長が笑う。
それに怒りがふつふつと湧いてきた。
うちに来てコーヒーをせびるのはまだいい。
でも、社長は作業を中断してわざわざ現場から帰ってきたのだ。
なのに、〝忘れた〟とは?
きっと忘れたのではなく、最初から用はなかったに違いない。

「ああ、そうですか、忘れた、ですか」

社長の声には皮肉が含まれていたが当たり前だ。
しかしそれが相手に伝わればいいが、彼は気づく様子がまったくない。

「あ、そうだ。
最近、利幅が低くないか?
無駄な経費使ってるんじゃねーよ。
そこの事務員とか」

ちらっと山背部長の視線がこちらに向かい、カッと頬に熱が走った。

「電話番とか近所のばばぁに小遣い渡してやらせときゃいーんだよ」

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