油圧ショベルに乗った王子様~ノーブルな土木作業員は元気娘を愛でる~
後輩のこれが偏見だというのはわかっている。
しかしそれくらい、前の会社の御曹司は私たちにトラウマを植え付けたのだ。

「うん、気をつけるよ」

なぜか申し訳なさそうに渡守さんが頭を下げる。

「やだー、渡守さんは御曹司じゃないじゃないですかー」

うんうんと激しく頷いて後輩に同意した。
もし彼が御曹司だったら、いくら優しくされても距離を取っていたかもしれない。

支払いは渡守さんがしてくれた。

「え、悪いです!」

「いいから。
先行投資?」

意味深に彼が、眼鏡の下で片目をつぶってみせる。

「えっ、あっ、……じゃあ。
ごちそうさまです」

熱くなった顔を見られたくなくて、俯いた。

「ごちそうさまでしたー」

「気をつけて帰んなよ」

「はーい、おやすみなさーい」

上機嫌の後輩を乗せてタクシーが走り出す。

「すみません、後輩のタクシー代まで」

「いいって。
俺らも帰ろうか」

ぺこんと頭を下げた私の背中を押して渡守さんが促し、足を踏み出しかけたが。

「璃世?」

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